公営事業の可能性を追求 丸谷さんの足跡
【池田】「国が公営ギャンブルを自治体の財源に認めている以上、自治体はほとんどの事業をやれるはずだ」。3日に死去した元池田町長の丸谷金保さんは、こんな論理から数々の事業に取り組み、自治体の公営事業の可能性を追求した。十勝ワインで成功し、「3割自治」と呼ばれた時代に、中央に依存しない地方の自立した生き方を身をもって提示。全国の地域づくり活動に夢や勇気を与え、一村一品運動の源流をつくった。
丸谷さんは士幌村農民同盟事務局長から池田町長選に37歳で立候補し、72票の小差で元助役を破り初当選した。当時の池田町は十勝沖地震の災害復旧の支出増や冷害による税収減で赤字団体に指定され、どん底の状態だった。
そんな中で、町内で自生していた山ブドウをヒントにブドウ栽培とワイン造りに着手した。本場の技術習得のため町職員を欧州へ派遣させる一方、首都圏でのワイン販売のため第3セクターの会社を東京に設け、全国各地にワイン友の会を立ち上げるなど積極的な事業を展開。1970年代に入るとワインブームで十勝ワインは売り上げを飛躍的に伸ばした。
当初は、冷害でブドウ栽培が大打撃を受け、町民から批判を浴びた。「こんな酸っぱいワインは飲めない」と言われ、販売に苦労した。64年に山ブドウで作ったワインがハンガリーでのコンクールで3位に入賞したことが後の評価につながった。
丸谷さんは昨年の取材で、「ハンガリーのコンクール入賞で町の空気ががらりと変わり、『ほら吹き町長』が『アイデア町長』になった」と笑顔で語った。
ワインにとどまらず、町営レストランやワイン城を設け、ワインで得た収益を学校給食費補助など町の事業へ還元させるなどワインを核にしたまちづくりを積極的に進めた。また、年金支給額を物価にスライドさせる制度を全国で初めて導入し、反対する旧自治省や道を相手に論陣を張るなどしたたかな面もあった。
池田町出身で若いころから兄弟同然の関係だった元吉村博帯広市長(故人)の勧めで1977年の参院選に初当選し、国政へ転じた。選挙戦でも十勝ワインのネームバリューは絶大だった。
丸谷さんは昨年6月に開かれた十勝ワインの50周年記念式典で「山ブドウの森」構想を提案し「世界でもまねのできないワインを」と述べ、十勝ワインへの熱い思いを最後まで灯し続けた。(平野明)
◆故丸谷金保さんについて
・「再生・ワイン城 上 シンボルへの思い」-十勝毎日新聞電子版(2005/04/12)
・「プロジェクトX裏話を披露 十勝ワイン友の会 元町長の丸谷さん、大石さん」-十勝毎日新聞電子版(2005/12/12)
・「池田町再建の道のりつづる 元町長、丸谷金保さん回想録出版」-十勝毎日新聞電子版(2007/10/05)
・「編集余録 丸谷さん」-十勝毎日新聞電子版(2007/11/04)
・「あの日あの時 十勝ひと物語 元池田町長丸谷金保さん 1」-十勝毎日新聞電子版(2008/06/24)
・「あの日あの時 十勝ひと物語 元池田町長丸谷金保さん 2」-十勝毎日新聞電子版(2008/06/25)
・「あの日あの時 十勝ひと物語 元池田町長丸谷金保さん 3」-十勝毎日新聞電子版(2008/06/26)
・「あの日あの時 十勝ひと物語 元池田町長丸谷金保さん 4」-十勝毎日新聞電子版(2008/06/27)
・「あの日あの時 十勝ひと物語 元池田町長丸谷金保さん 5」-十勝毎日新聞電子版(2008/06/28)
・「セイコーマート新社長・丸谷氏に聞く 地域密着で差別化を」-十勝毎日新聞電子版(2009/05/19)
・「元池田町長の丸谷金保さんが地方自治熱弁」-十勝毎日新聞電子版(2010/05/15)
・「ワイン文化広めたい」セイコーマート・丸谷社長に聞く-十勝毎日新聞電子版(2010/12/16)
・「台風12号被災ゆかりの地を案じる 元池田町長・丸谷さん」-十勝毎日新聞電子版(2011/09/08)
・「池田出身・田辺由美さんのワイン講座が20周年-十勝毎日新聞電子版(2011/12/02)
・特集「山ブドウからの出発~十勝ワイン50周年」全5回-十勝毎日新聞電子版(2013/06/12~16)
・300ヘクタールの「山ブドウの森」を 丸谷さんが構想-十勝毎日新聞電子版(2013/06/20)
・池田出身のソムリエ田辺さん、帯広で講演 十勝ワイン50周年-十勝毎日新聞電子版(2013/06/27)
・池田出身の田辺さん、国際ワインコンクール初開催 東京-十勝毎日新聞電子版(2014/01/29)
・編集余録「ああ丸谷さん」-十勝毎日新聞電子版(2014/06/04)
・丸谷さんしのびあす再放送 NHK「プロジェクトX」-十勝毎日新聞電子版(2014/06/13)