大樹から宇宙へ(5)「大樹から世界に貢献」
「広大な土地や立地条件から、宇宙往還機が水平離着陸するには、ここにしかないということを強調したい。スペースポートへの取り組みが少しでも進んでいけば」
大樹町で次世代航空機や宇宙機を開発しようという「北海道スペースポート構想」に対し、町職員時代から宇宙政策に力を注いできた伏見悦夫大樹町長はこう期待を寄せる。
同構想は北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)が提唱。CAMUI(カムイ)型ハイブリッドロケット関連では、高度100キロ程度を飛行するサブオービタル機にカムイロケットを載せ、高高度から発射させ、超小型衛星を打ち上げる計画がある。
大樹町内には昨年、東大などが超小型衛星のための受信局を設置しており、伏見町長は「カムイロケットが打ち上げた超小型衛星の電波を、大樹で受信することもあるかもしれない。そのような連携で、技術的に素晴らしい成果が生まれるはずだ」と夢を描く。
構想実現に向け、大樹町はロケットを打ち上げる東南に向かって太平洋が開けているという好条件が整っている。HASTICの伊藤献一理事長は「日本だけでなく、世界にもあまりそういう場所はない。スペースポートの最有力地であるのは間違いない」と強調する。
本格的な事業展開には国レベルの財政支援が不可欠だ。現在の航空公園は町が1995年に約1億8000万円で整備、98年に約4億円で滑走路(1000メートル)を舗装した。構想に描かれる滑走路のさらに3000メートルの延長・拡幅に、HASTICは事業費約100億円を見込む。
同構想は決して夢物語ではない。2006年、HASTICが民間宇宙開発を手掛けるロケットプレーン社(米国)と業務提携を締結。10年には同社役員が大樹でカムイロケットの実験を見学した。ロケット機「リンクス」を開発中のエックスコア社(同)もまた、昨年夏に関係者が来日し、大樹を含む国内の候補地を検討したという。
伊藤理事長は「候補地の中で、大樹だけがリンクスに対応する滑走路を造れる可能性があった。日本なら大樹でという手応えがあった」と自信を見せる。
大樹が、「北海道航空宇宙産業基地構想」(85年)から宇宙のまちづくりを進めて四半世紀が過ぎた。伏見町長は宇宙のまち・大樹の将来をこう考える。「まちづくりに1つくらい、大きな夢があっていい。宇宙開発で大樹から世界に貢献できれば」(佐藤圭史)
<北海道スペースポート構想>
大樹町多目的航空公園を拡張し、滑走路を4000メートルに延長する。航空宇宙輸送技術の開発のために超音速機の飛行実験が行われ、将来的にはサブオービタル機や宇宙機の飛行も想定する。体験参加型の観光資源として、ハイブリッドロケットの体験打ち上げなどを考えている。