黄金の隊列 一瞬のほころび 最終周 菜那転倒も攻め貫く 女子団体追い抜き
【中国・北京=北雅貴】精いっぱい攻めた結果だった。女子団体追い抜きの日本は、今季ワールドカップ(W杯)3戦全勝のカナダ相手に、快調に飛ばす積極的なレース展開で、終始リードを保った。最終周6周目の最後のカーブ。最後尾で、前を滑る佐藤綾乃を後ろから押してスピードを下支えしていた高木菜那が、バランスを崩して転倒。防護マットに体を打ち付けた。
起き上がって失意の中、ゴールに入った。号泣する高木菜を妹は歩み寄りそっと抱きしめた。高木美は「掛ける言葉がなかった。そばに行くことしかできなかった」と振り返った。リザーブで、小さな頃からスケート仲間だった同学年の押切美沙紀(富士急-駒大苫小牧高、中札内中出)や、佐藤も励まし、長年行動を共にし築き上げた強い絆をのぞかせた。
日本らしい素晴らしいレースだった。スタートでカナダより先にスピードに乗り、1周で1秒05の差を付けた。世界一美しいと言われる3人の隊列。動きが同調し、足並みがそろった滑りとスムーズな先頭交代でリードを守った。1回戦と準決勝と同様、高木美が1・75周、佐藤が1周を先頭で引っ張った後、高木菜が前に出た。少しずつ詰められていた差を気迫の滑りで再びリードを広げた。高木菜は「すごく調子が良かった。(1回戦からの)この3レースで一番良い滑りができて妹につなげられた」。
後半に強いカナダにまた猛追され、4・5周からの半周で0秒26縮められる。「相手が追い上げてきているんだなと察した」(佐藤)。2日前の1回戦で出したオリンピック新記録をも上回るタイムで最後の200メートルを通過したが、悲劇が待っていた。会場で行われたメダルセレモニーでも涙を流す高木菜。高木美は「もっと最初の方で何かできたことがあったのではないか。後半の戦いになる前に、もっとチームにリズムをつくることができたのではないか」と自問自答した。
約4時間後にメダルプラザに場所を移して行われたビクトリーセレモニー。高木菜に涙はなかった。「みんなで金メダルを取りたかったし、なんで転んでしまったんだろうという思いはやっぱりあるし、受け入れるまでに時間がかかる」としつつ、「押切を含めて4人でずっと練習して歩んできた6年間は、本当に自分たちの宝物」と過程には納得していた。
カナダのエースで今大会の5000メートルで銀メダルを獲得したイザベル・ワイデマンが「チームジャパンは長きにわたって強く、パシュートを新しいレベル、高みに押し上げてくれた。同じ舞台で戦うことができてうれしい。一糸乱れずに隊列を組むシンクロの部分を特に参考にした」と賛辞を惜しまなかったチームワーク。個々の地力も4年前より格段に上がった。努力の結晶の銀メダルが色あせることは何もない。