「早期発見、早期隔離」教訓に 帯広徳洲会病院クラスター収束 棟方隆院長に聞く
【音更】新型コロナウイルスで、十勝管内初の医療機関でのクラスター(感染者集団)が発生した音更町内の帯広徳洲会病院は6日、5日でクラスターが収束したと発表した。同院の棟方隆院長は6日、十勝毎日新聞の取材に応じ、クラスターの発生や収束までの経緯を説明するとともに、「早期発見、早期隔離」の教訓や十勝のコロナ終息への思いなどを語った。(大谷健人)
-クラスター発生までの経緯は。
昨年12月16日、発熱症状のあった職員が抗原検査を行ったところ、陽性が判明した。職員、入院患者を検査したところ、22人の陽性が判明した。管内の陽性患者を受け入れていたこともあり、感染経路は現時点でも分かっていない。3、4階が入院患者の病棟で、3階をコロナ患者の受け入れに使用していたが、多くの職員が濃厚接触者として自宅待機となる中で、陽性が判明した4階の患者を速やかに3階に移すことができず、院内で感染が広がる一因となった。
-クラスター発生後の対策は。
ゾーニング(区域分け)を徹底し、3階に陽性患者を移した上で、陽性者に接する職員と非陽性者に接する職員を完全に分離するなどした。当初は抗原検査のみで、(より精度の高い)PCR検査を行うことができなかったが、グループ病院から機器の貸し出しを受けるとともに、機器を購入し、現在は院内で速やかにPCR検査を行える体制が整っている。
専門家と情報共有
-関係機関との連携は。
職員の陽性判明後、対策本部を設置し、帯広保健所、徳洲会グループの病院やグループ本部、国立感染症研究所の専門家と協議を続けながら対策を取り続けてきた。音更町とも逐次連絡を取り合い、行政などとの情報共有も行った。また、十勝の医療機関は帯広市医師会の稲葉秀一会長の下で連携体制ができており、他のクラスター発生施設の状況など情報共有できたことも良かった。
-職員のメンタル面への影響は。
職員にはつらい思いをさせてしまった。親の勤務先でクラスターが発生したということで、子どもを保育園などに預けられないという職員もいた。それでも収束に向けて職員は「誰の濃厚接触者にもならない」という意識を徹底し、心は団結してくれた。リハビリスタッフなど病棟勤務ではない職員も清掃に協力するなど心強かった。
中傷も励ましも
一方で、残念ながら「(病院勤務は)家族に迷惑が掛かる」という理由で退職した職員もいる。心ない誹謗(ひぼう)中傷もあったが、「頑張って」という学校の児童・生徒からの寄せ書きなどの応援や音更ロータリークラブからの差し入れなど、地域の支援が本当にありがたかった。地域に恩返しがしたい。徳洲会グループで職員の相談窓口があり、必要なケアは行っていきたい。
-今回の一件で得た教訓や反省点は。
結果的に感染を拡大させてしまったが、その時点、時点での体制の中では万全を期してきた。やはり最も大切なのは「早期発見、早期隔離」だ。今後は入院患者のPCR検査によるスクリーニングを徹底する。
自分守る行動を
-ワクチンの接種が始まるが、期待することは。
コロナ終息のためにワクチンに期待する部分は大きいが、ワクチンによってこの病気やウイルスが完全に世の中からなくなるわけではなく、すべての人が感染・発症しなくなるわけではない。市民のみなさんにも「若いから重症化しにくい」「ワクチンを接種したから大丈夫」ではなく、自分自身を守る行動をしてほしい。
-収束を迎えた今の気持ちは。
「終わったんだな」という安心感もあるが、患者や職員のご家族に心配させてしまったことをおわびしたい。外来や救急患者を受け入れできず、地域医療に貢献できなかった期間も続いた。信頼回復のための努力をしていきたい。この間、地域の支援が心のよりどころであり、地域に貢献したい。クラスターが発生している施設のサポートもしていければ。