乃南アサさん講演会
開拓時代の十勝を舞台にした長編小説「チーム・オベリベリ」を今夏出版した直木賞作家、乃南アサさんの講演会が13日、帯広市内のとかちプラザ・レインボーホールで開かれた。「初めての帯広から『チーム・オベリベリ』が生まれるまで」と題し、約100人の来場者を前に今作品や主人公のルーツについて語った。
十勝毎日新聞社主催、講談社、喜久屋書店協力。乃南さんは1960年東京生まれ。96年の「凍える牙」で第115回直木賞、2011年「地のはてから」で第6回中央公論文芸賞、16年「水曜日の凱歌」で第66回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。
今年7月に出版した新作「チーム・オベリベリ」は、晩成社幹部・渡辺勝の妻カネを主人公に据え、十勝開拓に身を投じた実在の若者たちを描いた長編リアル・フィクション作品として注目を浴びている。
講演で乃南さんは執筆の経緯について、07年ごろにアイヌを調べる別作品の取材で訪れた帯広百年記念館で、依田勉三の存在を知ったことがきっかけだと紹介。「勉三の写真から『目力』や、モダンな雰囲気を感じた。他の仕事をしていた間も、その顔は忘れられなかった」と、構想を長年温めていたことを明かした。
作品の主人公にしたカネの生い立ちについても解説。激動の時代の中、渡辺勝に付いて開拓期の北海道へ向かうことを決めたカネについて、「父親の勧めや本人の信仰心の強さもあるが、何より勝の持つ魅力に引きつけられて決意したのではと感じた。(チーム・オベリベリの)物語はこの妄想から始まっている」(乃南さん)と思いを語った。勉三や鈴木銃太郎ら幹部の話を交えながら、カネや勝の暮らした十勝の姿について説明した。
市内から参加した及川新吉さん(72)は「自分の足で徹底して取材している意識はまねできない。また時間を見つけて講演しに来てほしい」と話していた。
(大木祐介)