障害持つシマフクロウ「ちび」、森の親善大使に
【釧路】4年前、十勝管内の森で見つかり、環境省釧路湿原野生生物保護センター(釧路市)に保護されたシマフクロウの「ちび」(雄、4歳)。絶滅危惧種であるシマフクロウと人とをつなぐ「親善大使」の役割を与えられ、道内各地でシマフクロウの置かれた現状を人々に伝えている。小首をかしげ、こちらをじっと見詰める黄色い眼。生い立ちを知ると、その目がこう訴え掛けているような気がしてくる。「人間たちの暮らし方、本当に今のままでいいの」-。
(丹羽恭太)
ちびは2011年春、環境省による保護増殖事業の一環で、十勝管内の繁殖地でひなの成育状況を確認する中で見つかった。きょうだいに比べ発育が遅く、しばらく様子を見ても改善が見られなかった。そこで、釧路市の同センターで保護することになった。
同省から事業を委託されている猛禽(もうきん)類医学研究所(釧路市)で調べたところ、右の目や翼が左より小さい、左右非対称の障害があることが分かった。てんかんのような神経異常もあり、ストレスが掛かると首がどんどん傾き、ついには頭頂部が真下を向いてしまう。野生復帰は困難だった。
同センターでは、事故などで傷付いた希少な鳥を保護している。治療と訓練の後、野生に戻すのが目的だが、中には野生本来の能力を取り戻せない鳥もおり、そうした個体は繁殖や展示のために動物園に預けられる。ただ、ちびは先天的とみられる異常があるため繁殖には向かない。そこで与えられたのが、シマフクロウと人とをつなぐ「親善大使」の役割だった。
人間に慣れる訓練を受けたちびは今、道内のイベントなどを回り、シマフクロウの現状を伝えている。ちびの育ての親で、講演活動のパートナーでもある同研究所副代表の渡辺有希子獣医師(帯広畜産大学卒)は「ちびと一緒に講演に行くとインパクトが大きく、ただ話すのとは反応が違う」と、その役割の大きさを実感。「ちびの仲間が、これからも生き残っていける環境をつくりたい。それはシマフクロウだけでなく、多種多様な動物が住める環境でもある」と話す。
100年ほど前には、シマフクロウは道内全域で1000羽程度生息していたとされるが、開拓に伴って巣になる大きなうろのある巨木が伐採され、餌の川魚が減少。現在の生息域は知床半島と根室、十勝、日高、上川の一部に限られ、生息数も約140羽まで減少した。
渡辺獣医師は「数の減少以上に、生息域が分断されていることが問題」と強調する。シマフクロウは一気に長距離を飛べないため、移動するには森が一定程度連続している必要がある。森が分断され、縮小している現状ではシマフクロウは分散できず、個体数を増やしても近親交配が進んでしまう危険性が高い。
実際、すでに遺伝的多様性が低下していることが分かっており、渡辺獣医師はそれがちびの障害の原因になっている可能性を指摘する。また、森をまたいで移動する際、交通事故に遭うことも少なくない。
シマフクロウはかつて、アイヌの神の中でも最も偉大な神として崇敬されていた。渡辺獣医師は「ちびをアイコン(象徴的なもの)として、今の北海道の自然環境を見詰め直し、持続可能な環境づくりや、人と動物の付き合い方について考えてもらうきっかけをつくっていきたい」と話す。