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とかち 新・働く考「私からのメッセージ」(5)作家・村上龍さんインタビュー

 <略歴>1952年長崎県佐世保市生まれ。武蔵野美術大学在学中の76年、「限りなく透明に近いブルー」で群像新人文学賞と芥川賞を受賞。代表作に「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」「五分後の世界」「半島を出よ」などがある。テレビ東京「カンブリア宮殿」のインタビュアー、政治経済関連の問題を考えるメールマガジン「JMM」の主宰など、文壇以外の世界にも積極的に関わっている。

 「とかち 新・働く考」と題し、各種連載などを展開してきた今年の本紙年間キャンペーン。締めくくりとして、ベストセラー「13歳のハローワーク」などの著書がある作家の村上龍さんに、現代日本の働く現場や教育が抱える課題、自身の職業観などを聞いた。
(聞き手・安田義教)

働くことは「サバイバル」
システムが制度疲労

 -働くことをテーマにした作品を書く理由は。
 大事なことだから。生活費を稼ぐだけでなく、信頼できる仲間をつくり、プライドや社会性といったものも働くことで得られる。ただ、日本だけではないが雇用システム全体が制度疲労している。昔は通用したことが今は通用しない。働く場所を探すのが今は非常に困難。見つけてもブラック企業だったり、非正規が増えたり、給与も上がらない。働くということは世界中の大テーマ。失業率で指導者が代わる国もある。

 -村上さんにとって働くことのキーワードは。
 大げさだけど「サバイバル」。人生を切り開くという大げさなものではなく、生き延びるということ。日本は戦争も内乱もないが、何だかんだで生きていかないといけない。

 企業で言えば残っていくこと。ベンチャーの大半が数年で倒産する中で、残れば市場でそれなりの存在感が出てくる。個人では、つぶされないようによく考えて生きていくこと。ブラック企業で睡眠時間4時間で働くことではない。やりがいや達成感、仕事が大変だけど充実感があるという仕事でないと、逆にサバイバルできない。

 自分はどう生きていくんだろうと、子供の頃からぼんやりとでも考える仕組みになっていない。いい学校へ行けば、いい会社に就職できて安定につながる、という価値観が圧倒的に占めている。現実的に、大手の一流企業に入ると零細中小企業よりも楽。でも、そこに入れるのはわずか5%で、それを目標にすると95%は敗北者になる。そうした価値観は完全に古い。

仕事は「出会う」もの
 -女性の能力発揮について考えることは。
 日本は圧倒的に女性の登用、女性に対する理解、女性の能力を生かすことに無頓着。代議士も社長も少ない。それでケネディの娘が来て喜んでいるなんて、変だと思う。男女雇用機会均等法で変わったことを考えると、法律や制度を整えるのも一つだと思う。

 -子供のキャリア教育には。
 この前、近所の中学校の授業の一環で2年生とやりとりした。「自分が好きな仕事が分からない」と話す生徒がいたが、分からなくてもいいと言った。

 自分に向いた仕事は、探して「見つける」ものでなく「出会う」もの。本を読んだり、友達と遊んだり、テレビを見たりする中で、「これ何だろう」と心に引っ掛かり、興味を持ち、調べて出会うもの。子供たちは出会うための時間をたくさん持っている。別に夢を持たなくてもいいから、いつか必ず出会うと思い、好きなことや興味のあることを一日一日やればいい。

トレーニングが必要
 -若者の就労については。
 専門家でないので分からないが、僕が早急にやるべきだと思うのは、行政が本格的に若い人への職業トレーニングを行うこと。職業訓練は以前は落ちこぼれを救う意味合いがあったが、高校や大学、一流企業に進めない人に対して、企業がどんな技術やスキルを求めているか把握し、お金を掛けて組織的にトレーニングする。

 若年層が自分の能力を生かせないのは、非常に合理的でない。東大生の親の半数が東大など、学歴や教育環境が受け継がれる傾向にある。子供は能力を無限に持っているが、上手に引き出せないと社会は衰退する。これだけで解決するとは思わないが、今はトレーニングするお金も、施設も足りない。

 -エッセー集などでは、富裕と貧困、中央と地方など社会格差の問題を指摘している。
 給与が安い高いの格差は昔もあったが、高度成長期は一律に上がった。今は給与が上がらず、一方で富裕層は増えている。複合的な理由が絡み合っている。地方と都市もそう。僕の田舎の九州もだが、雇用を吸収する産業が乏しい。

 僕の妹は(上川管内)東神楽町で農業をしているが、北海道は販路や流通を工夫した先進的な農家が多いと思う。農業は粗利が大きくないが、働き場所はある。十勝は農業が強い分、他の地域より環境はいいのではないか。地方の可能性は地方の人が考えていくしかない。(おわり)

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