人の気配「人の気配が漂うアートワーク」
新しい作品を発表するとき、音楽そのもの以外にも考えなくてはいけないことがたくさんある。その一つがアートワークだ。CDのジャケットや歌詞カード、グッズなどもそこに含まれる。音と詩で構成される音楽のほかにも、視覚的にイメージを具象化することは非常に大きな意味を持つ。
ここ数年、僕の作品のアートワークは岩本実里さんにお願いすることが多い。僕以外にもさまざまなミュージシャンを担当するデザイナーである。もちろんクオリティーや好みが最優先される関係ではあるが、それ以外に彼を信頼している理由は仕事に対する姿勢にある。
その作品の意味を理解しようとする。そのときの僕自身を理解しようとする。そんな視点から生み出されるアートには確かな温度がそこにあって、それが心地よさや、時には激しさとなって受け手の感情を突き動かしていく。
岩本さんとは深いところまで話ができる。頼れる仲間がいることで、僕は音楽制作に集中することができる。それは僕に限らず、すべてのミュージシャンの理想と言えるだろう。
どんな職業にも言えることだが、ただ仕事をこなすだけでは信頼は得られないし、感動も生まれない。何より自分自身が高揚しないだろう。それが相手に伝わり、悪循環を引き起こす。そんな関係を目の当たりにすることも少なくない。
相手の顔色を気にすることと、相手を思いやることは、全く別物である。それは愛情という言葉に置き換えられるかもしれない。仕事を引き受ける以上は愛情を持ってやる。そんな当たり前のことを、岩本さんの気配を感じながら思い出している。これもまた彼がアートワークを手掛けた最新アルバムより、『Slow Dance』を聴きながら。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、ニューアルバム『Chase Af-ter』をリリース。7月8日に新得町で開催される「GANKE FES 2023」に出演する。