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肥料高の今 施肥見直しを 農業座談会

 農業に欠かすことのできない肥料の価格が高騰し、化学肥料との付き合い方や「土づくり」に改めて関心が集まっている。農業王国・十勝は土壌診断の環境が整う先進地だが、分析結果をより有効活用し、いかに農業経営に生かしていくかが問われている。十勝の土壌に詳しい帯広畜産大学の谷昌幸教授、適正施肥を実践する下浦農場(浦幌)の大葛政史さんに、現状や課題を話してもらった。


<参加者>
下浦農場(浦幌)業務部長 大葛政史氏、帯広畜産大学教授 谷昌幸氏、司会・高久佳也十勝毎日新聞社編集局長(左から)

<たに・まさゆき>
 1968年大阪市生まれ。筑波大大学院農学研究科修了。95年に帯広畜産大学の助手になり、助教授を経て2015年から現職。専門は土壌学と栽培環境学。

・1トン分の販売額減る 大葛氏
・リン・カリ 畑に蓄積 谷氏

 高久 肥料がこれだけ高くなって、経済面でも土の力を引き出す意味でも、適正な肥料の使い方が非常に大事になっている。生産現場の肥料高騰の影響は。

 大葛 死活問題かそれを超えるレベル。この1年でビートなら1反(10アール)当たりの肥料代約2万円が2倍になった。収量で1トン分余りの販売額が減るのと同じことで、もうけが飛んでしまう状況にある。

 このため、ビートやジャガイモに比べて肥料を使わない大豆などにシフトする傾向が見える。先を考えると輪作体系や土壌バランスが崩れて作物が取れない恐れがあるが、余裕がなくて目先の利益確保に向いている印象を持っている。

 高久 谷さんの研究に対する関心の高まり、環境の変化は。

  土壌や肥料に興味を持つ人は多くなった。講演依頼が増えて、雑誌への寄稿をまとめた本も出した。

 そうした場で話すのは、肥料の3要素「窒素」「リン酸」「カリウム」は同列には扱えないということ。窒素は作物を大きく育てるには絶対に欠かせないが、リンやカリはそこまでではない。ジャガイモの施肥標準は1反で窒素6キロ、リン20キロ、カリ11~12キロだが、これは無駄だと思う。

 高久 その理由は。

  十勝の歴史がある。もともと火山灰土の黒ボク土は世界的にも痩せた土壌で、十勝の畑作は春先の低温に悩まされてきた。そこにリンを入れると作物が取れやすかった。1950~70年には、化学肥料で土地の生産性が上がった。例えばジャガイモは、50年代で反2トンも取れなかったが今は3トン超。その成功体験があるだけに、新たなデータを示して、今は肥料を減らせますと言っても簡単にはいかない。

 大葛 畑の一角で比較試験を行い、抜き取り調査や単収、糖分、最終的なお金の勘定もして利益が出れば分かってもらえる。ただ恐ろしくてできないという考えが多いと思う。

  減らしてほしいのはリンとカリ。既に土壌に蓄積されて、植物が吸える状況になっている。カルビーポテトとの共同研究では、カリの施肥量は「ゼロ」が一番育った。乳牛ふんの堆肥を与えて過剰にカリが入っているのに、さらに化学肥料で入れてしまっている。

<おおくず・まさふみ>
 1983年埼玉県生まれ。帯広畜産大学卒。北海道糖業に入社。浦幌や足寄などの耕作地500ヘクタールで主にビート生産を手掛ける関連会社、下浦農場に出向し、2020年から業務部長。

・土壌診断マメな十勝 谷氏
・必要な分だけで増収 大葛氏

 高久 十勝は土壌診断の先進地と言われる。その活用法とは。

  十勝農協連や道総研が定着させたのは、非常に大きな貢献だった。ここまでマメに土壌診断を行う地域は日本にはない。そのおかげでリンとカリは、蓄積しているほ場が多いと分かった。

 大葛 下浦農場ではコストの割に収量が上がらない時期があったが、今は土壌分析の結果を施肥設計に生かし、ホクレンの協力でオリジナルの肥料を作ってもらい、必要な成分だけを入れるようにしている。取り組んで1年目からコストは3割程度減り、一方で収量は1割以上増えた。

 単純に減肥するのではなく、適正施肥が大切。あくまでも診断結果で畑の状態をきちんと見て、それに合った施肥をする。他の人がうまくいったから右にならえだと失敗しがち。

 高久 土壌診断のデータをうまく使い、適正施肥ができれば、望む質量の作物が取れて、逆風を乗り切れる地域だと感じた。

  十勝はポテンシャルのある地域。家畜ふん尿や他の資源もあって、有効に使えば実は肥料はほとんど入れなくてもいい。リンもカリも世界的に資源が偏在していて地政学的なリスクがある。いらない肥料はなるべく入れない、今回を転機と捉えてはどうか。

  「土づくり」とは大ざっぱな言い方だとも思う。土壌には、もともとの土の成り立ちによる排水性や保水性があり、一方で長年の営農履歴によって変化した部分もある。例えば土の性質上、粘土が多ければ排水性は悪い。同じ排水性の悪さでも、機械の使い方(踏圧)や有機物の投入不足などによって悪化するパターンもある。この二つは区別すべきで、肥料でごまかさずに原因を見極め、改善させていかなければ。実は物理性というのも非常に大事なファクターだ。

 大葛 きちんと土づくりをして畑のバランスを整えていけば、小麦でもビートでも、いい年でも雨が多い年でも収量は安定する。この畑では特定の作物だけ取れるというのは、肥料を多く入れて一時的に取れているためだと思う。

  肥料というのは私たちが考えると「おやつ」みたいなもの。主食のご飯は土壌からの養分。それがしっかりしていれば、おやつの肥料は最小限でいい。土壌を整えるのは土づくりの第一歩で、数年単位で意外に誰でもできること。肥料もより吸収しやすくなる。

高久編集局長

・女性と消費者が動かす 谷氏
・「無駄なことはしない」 大葛氏

 高久 大事なことは分かるが、それをいかに実践していくか。

  動かす力の一つは女性だと思う。農家では男性が物事を決めることが多いが、女性の金銭感覚でコストをシビアに考えてくれればいい。もう一つは消費者の存在。生産者だけが肥料が高いと叫んでも消費者には伝わりにくい。共有して理解してもらい社会全体でどう考えるかも大切になる。

 大葛 経営を考えると、必要のないコストはかけなくてもいい。肥料も作業も見直して無駄を省く考えが一番だと思う。

 高久 お話を聞いていると、せっかく取り組んでも効果がなかったり、やり過ぎたりすることもある。適正な施肥も物理性の改善も、その意味をきちんと理解して行うのが大事だと感じた。肥料高騰は長期化も予想される。

  肥料価格が下がっても下がらなくても、十勝農業、北海道農業として将来を見据えて手を打つ。また高騰したり不足したりしても、代替を考えながら農業を続けられるシステムに少しずつ移行していく。今は確かに大変な状況にあるが、前を向いて自立へのチャンスと捉えてほしい。

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