農に向き合う~農業経営部会会員紹介「広尾・菊地ファーム」
1.2009年に夫婦で新規就農
菊地亜希さん(34)は千葉県出身。帯広畜産大学の先輩である夫の亮太さん(37)と、2009年に広尾町で新規就農した。飼育方法は2人の夢だった放牧。現在は草地42ヘクタールのうち13ヘクタールを放牧地とし、日ごと採食適期の区画に放している。牛が放牧地とフリーバーン牛舎を自由に行き来できる設計にし、「牛の行動を制限しない飼育」を実践している。
安定経営や酪農教育ファームの取り組み、体細胞数や細菌数の少ない乳質などが評価され、17年度に北海道農業公社の新規就農者優良農業経営者表彰で最優秀賞を受賞した。18年7月には亜希さんの念願だった加工場併設のカフェを開店。自家産牛乳のジェラートやソフトクリーム、ブラウンスイス牛肉のメニューなどを提供している。
2.カフェを「酪農を伝えるきっかけ」に
離農跡地で初妊牛45頭からスタートした菊地ファーム。初期投資の1憶2000万円は、国や町の補助金と借り入れで賄った。現在飼育頭数は85頭に増え、従業員2人を雇用する。
敷地内に設けた「菊地ファームカフェ」は、2階席から放牧地を見渡せるロケーションが魅力。国道から離れているものの、開店翌年の19年5月は1300人の来店客を迎え手応えをつかんだ。「ここに来て酪農に触れ、牛乳や乳製品ができるまでのストーリーを感じ取ってもらいたい」。それがカフェ開店の目的だという。
ジェラートやソフトクリーム、カップアイスなど乳製品の加工は亜希さんが担当。63度30分の低温殺菌を1回。放牧乳ならではの風味を大切にしている。
3.有意義な同友会セミナー
同友会には事務局に勧められ17年に入会。先輩経営者の話を聞き、多くを学んだという。セミナーも積極的に参加してきた。「同友会のセミナーは、直面しやすい課題を先回りして開催する。行けば必ず答えが見つかるので有意義」。今は長女が2歳ということもありなかなか参加できないが、「セミナーをインターネットなどで視聴できる場合は活用したい」と前向きだ。
出掛けやすい広尾地区会の例会は貴重だ。「異業種の会員と交流し、広尾町の情報を得られる時間は楽しい」と、新来者らしい心情ものぞかせる。
4.広尾に恩返ししたい
新規就農から11年目。亜希さんが日々感じるのは地域への感謝だ。「縁もゆかりもない私たちを受け入れ支えてくれた広尾町や、十勝の酪農家へ恩返しをしたい」。その思いが原動力となり、複数の取り組みに関わる。
13年から一次産業に触れる体験型イベント「ピロロフェス」の実行委員長。さらに今年4月に設立した「ピロロツーリズム推進協議会」の会長としても精力的に動く。これは広尾町の魅力を掘り起こし、ファンを増やす観光振興団体。企画運営を進める一方で、「菊地ファームカフェが観光スポットとして役立つことが願い」と期待する。
酪農とカフェと加工に観光振興、そして子育て。「体が足りない」と笑う。
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