農に向き合う~農業経営部会会員紹介「帯広・坂根牧場」
1.放牧受け継ぎ、先進経営も
坂根牧場があるのは、民間ロケットの成功で宇宙のまちとして注目される大樹町。坂根遼太社長(35)は4代目。帯広農業高校を卒業後、ニュージーランド留学やアメリカ農業研修を経験し、23歳で実家に就農した。
父の代の2001年から放牧酪農に移行し、毎日牧区を変えて放している。「放牧を始めたのは、フリーストール飼いで病気の牛が増えたためと聞いている。近年、土作りに力を入れ始めてから、牛の健康状態はさらに良くなった」と坂根社長。
14年にはチーズ製造に着手し、「乳Life」ブランドを創設。翌年法人化を果たし、16年からはアニマルウェルフェア(動物福祉)認証を取得。またクラウド牛群管理システムも導入するなど、先進的な経営を進めている。
2.「乳Life」ブランドでチーズ製造
坂根牧場が作るチーズはモッツァレラやカチョカバロなど現在3種で、製造担当は千葉県出身の妻晃子さん。2人はアメリカ農業研修で出会った。将来カフェを経営し、自ら加工した乳製品を提供したいという晃子さんの結婚前からの夢は、今、坂根牧場の事業計画となっている。
ブランド名の「乳Life」は、乳のある新しい暮らしを提案するもの。車庫を改築したチーズ工房は小規模で、今は活用できる生乳量も牧場全体の0.5%とわずか。そこで来年20年には工房を増築し、生産能力は7倍増となる見込みだ。坂根社長は「カロテンが多く風味の良い放牧乳がうちの強み。特色あるチーズを作っていきたい」と気概を見せる。
3.経営指針を作成して実践
同友会では農業経営部会の幹事として活躍。「会員は皆、前向きで勉強熱心。付き合いや勉強会が楽しい」と笑顔を見せる。坂根社長は経営指針研究会に所属し自社の経営指針を作った。それが「牛と人を幸せにする牧場 ~Happy Cows,Happy People.~」。
アニマルウェルフェア認証の取得や更新も、経営指針に沿っての取り組みだ。「50以上に及ぶ評価基準は、飼槽や水槽が清潔である、牛床が清潔で軟らかいなど、どれも当たり前のこと。しかし改めて確認しながら実践していくと、自分の意識も変わってきた。例えば牛舎の柵を10センチ上げただけで、牛が頭を擦らなくなった。小さな工夫で牛が快適になる。その様子を見るとうれしくなる」と熱意を込める。
4.酪農は「エンターテイメント」
今後の展望を聞くと、「『乳Life』ブランドを、チーズ以外にも展開させたい」と即答。大樹町は酪農の町でありながら、町産の牛乳やソフトクリームがまだない。「ロケット効果で道の駅を訪れる観光客も増えた。せっかくなら大樹町の乳製品を味わってもらいたい」と観光振興を意識した見解を語る。
その考えから、坂根牧場は来年20年を目途に牛乳加工施設を設け、同時に自社生乳を原料にソフトクリームミックス製造にも乗り出す予定。「牧場は『エンターテイメント』で、酪農家は『エンターティナー』。人に感動を与えて社会に役立つ存在だと、多くの人に気付いてもらいたい」と言う坂根社長。海外生活の影響もあって、その思考は独創的でポジティブだ。
◆特集
・農に向き合う~農業経営部会会員紹介 一覧