乳牛ふん尿を「ほぼ無臭」にする 新たな曝気処理技術と堆肥化資材
道総研 酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ
1.試験のねらい
平成11年度に家畜排せつ物法が施行されたことにより、家畜ふん尿は適切な管理と利用・処理が義務付けられた。現在では貯留施設の整備率がほぼ100%に達しているが、貯留期間が長くとも半年程度であり、処理に要する技術・資材・労力が不足していることで悪臭問題が存在し続けている。この問題を解決するために、液状ふん尿に対して新たな曝気処理技術としてエアリフトポンプ型曝気装置を、固形ふん尿の堆肥処理に対して薄層加工木材による水分調整資材を開発する。
2.試験の方法
1)エアリフトポンプ型曝気装置の基本形状の選定と試作
2)基礎的な曝気能力の評価(送気量に対する吐出量、総括酸素移動容量係数など)
3)乳牛ふん尿スラリーに対する曝気処理能力と悪臭の低減程度を評価
4)木材を極薄に加工する薄層加工資材の基本条件と製造歩留まり・取扱性の評価
5)乳牛ふん尿の堆肥化処理条件と悪臭低減効果の評価
6)敷料利用時の水分および細菌数の変動の評価
3.成果の概要
1)エアリフトポンプ型曝気装置は、内径30cm の塩ビ製直立管で管路底部から空気を送り込み、管路内での強攪拌により曝気効果を得る(図1)。低水分・高粘度スラリーへの適合性が高く、大量加水や固液分離処理が不要である。夾雑物による管路閉塞も生じない。吐出口を液面に設置することで液面上の泡に対して消泡効果が生じ、消泡装置や消泡材が不要である。
2)乳牛ふん尿スラリー(容量100㎥ / 約1000頭分 / 種汚泥なし)における曝気処理では、処理3日目で臭気指数が目標とする37以下まで低下した。さらに曝気処理することで臭気指数は30以下まで低下し、ふん尿臭はなくなった(図2)。
3)薄層加工資材は、木材を厚さ0.05~0.1mm 程度に薄層加工したもので、製造歩留まり率(容量換算)は1820%で、オガ粉の4~5倍量であった。超仕上げかんな盤とカッター切断機の併用処理で、製造処理能率は0.8m 3/h/ 台であった。オガ粉製造と比較して、原材料費を1/ 5、電気代を1/ 3に抑制でき、相対的にオガ粉製造よりも低コスト化が可能と試算された。
4)堆肥化処理では、乳牛ふん尿1t に対して資材使用量17.8kg で完熟堆肥(180日後)となり、臭気指数は17まで低減した。オガ粉の1/10以下の使用量に低減できる(表1、図3)。
5)敷料適性評価(育成牛・未馴致条件・カフェテリア方式)では、供試牛群はオガ粉よりも薄層加工資材を使用した牛床を選択していた。薄層加工資材の牛床では、使用前後の細菌数は極めて少なく、敷料の細菌汚染を抑制する効果が極めて高い。また、水分活性がオガ粉よりも低いことから、環境性乳房炎への抑制効果が期待される。
4.留意点
1)対象とする乳牛ふん尿スラリーは、固液未分離および水分90%以上に加水した低水分 / 高粘度のスラリーである。ブロワ出力5.5kW の場合、適用可能規模は200頭以下である。
2)薄層加工木質資材は燃焼しやすいため、保管・利用の際には火気厳禁である。
3)エアリフトポンプ型曝気装置および薄層加工資材は特許案件であるため、装置・資材の製造・利用については道総研本部・知財 G(電話:011-747-2806, E-mail:hq-rps@hro.or.jp)まで。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ
(担当:農業研究本部 企画調整部 企画課 大越安吾)
問い合わせ先 道総研本部・知財グループ
Tel:011-747-2806
E-mail:hq-rps @ hro.or.jp