18歳選挙権~政治は身近ですか(3)「苦悩する教育現場」
定義見えぬ「中立性」
「18歳選挙権について勉強してみたいんですけど、参考になる本とか紹介していただけませんか」
6月上旬、授業が終わった後の休み時間、生徒から相談を受けた。公民科を受け持つ50代男性教諭はすぐに答えることができなかった。そんな本は読んだことがない。正直なところ、関心がある生徒がいることに驚いた。
「18歳選挙権」の導入を前に、高校を中心とした教育現場では政治参加の意識を高める「主権者教育」について模索が続いている。国は「政治的中立性」を確保した上での指導を求めるが、その定義は明らかにされておらず、あいまいだ。
主権者教育そのものに対し、40代男性教諭は前向きに受け止める。「将来を担う生徒が政治への関心を持つことは大切」と理解するが、「教師が意図しないところで『意見が偏っている』と問題視されたという話も聞く。政治家や候補者に触れる機会もつくりたいが、何人呼べば中立性を確保できるのか…」。新たな取り組みもしてみたいが、実際に踏み切るのは容易ではない。
罰則 教職員を萎縮させる
自民党は中立性に反した教諭に対する罰則を検討しており、別の40代男性教諭は「教職員を萎縮させる行為。18歳選挙権を作った意図と逆行する」と反対する。
授業では主に政治の歴史や仕組みを教える。また、多くの学校では選挙管理委員会などが主催し、選挙啓発の出前講座を実施しており、実際の投票用紙などを使った模擬選挙を行うこともある。政治を身近に感じてもらうことが狙いだが、「これまで公民科の教員が担ってきた政治教育を、選管などの公的機関が選挙をどう伝えるのか他の先生方にも知ってもらいたい」(管内高校校長)という意図もある。
ある国語科の50代男性教諭は、18歳選挙権の導入が決まってから、公職選挙法などを見直し始めた。「生徒が選挙違反を起こしては大変。私もあまり政治に詳しくないし…」
道高校PTA連合会の鈴木孝寿十勝支部長は「選挙の大切さを自覚した上で、投票に行ってほしい。学校での学びに加え、保護者も責任ある立場として子どもにしっかりと向き合ってほしい」と、生徒に最も身近な大人である親の姿勢の重要性を指摘する。
前段の50代男性教諭は、生徒に答えようと本を探し、読みだしたところ、考え直したことがある。生徒を「未熟で保護されるべき対象」と思うべきではないと。無意識に生徒は政治に関心がない、まだ子どもだと受け止めていた。「大人が生徒を対等な大人として接すること。自ら判断し行動する主体としてきちんと認めることが、主権者の自覚につながるのでは」。従来の生徒観を改めて生徒に向き合うことが、主権者教育の第一歩ではと思っている。(松田亜弓)
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