「きたねばり」の安定生産と有効活用に向けて
十勝農試 研究部 地域技術グループ
1.背景と目的
やまのいも新品種「きたねばり」は、とろろの粘りが強い特長を生かした生産・利用が期待されているが、品種育成過程ではその栽培や品質に関する詳細な特性解明には限界があった。そこで「きたねばり」の高品質安定生産技術の検討とともに、大学や加工メーカー等の協力を得ながら品質・加工特性を明らかにし、これを生かした製品試作に取り組むこととした。
2.試験方法
1)「きたねばり」の高品質生産のための栽培法の確立
安定供給のため、既存ながいも「音更選抜」と比較しながら、粘りや乾物率など品質のばらつきが少ない栽培技術を確立する。
試験項目:施肥量、栽植密度、切いもサイズ、つる切り時期
2)新商品開発に向けた内部品質評価
収穫時期や貯蔵期間が品質に及ぼす影響を明らかにする。
試験項目:乾物率、とろろの粘度・褐変、ポリフェノール含量、その他内部成分
3)「きたねばり」のブランド化に向けた新商品の開発
加工適性を評価し、ねばり強さなど高品質性を生かした新たな商品を検討する。
試験項目:歩留まり性、作業性、品質(粘度、色)、官能評価
3.成果の概要
1 )既存のながいもは多肥により乾物率が低下する傾向にあったが、「きたねばり」ではこの傾向はみられなかった(表1)。栽植密度および切いもサイズに対する反応はほぼ同様であった。
2 )「きたねばり」は一本重のばらつきが既存のながいもよりやや大きかったが、内部品質(乾物率、とろろの粘度)のばらつきは同等であり、特定の栽培条件下で特にばらつきが大きくなることはなかった(表1)。
3 )早期つる切りのような極端な処理区を除き、「きたねばり」の内部品質は既存ながいもを明らかに上回り、胴部におけるとろろの粘度目標値130RVU を安定して上回った(表1、2)。
4 )「きたねばり」肩部のとろろは褐変が著しく、その程度は栽培条件等で変化しなかった。
5 )「きたねばり」のいもを縦断し、30分後の断面における変色部位と、とろろ加工時の褐変部位は一致した。この方法によりとろろの褐変はいも全長に対し地上(首)側の概ね2/3の部位で生じ、先端(尻)側1/3ではほとんどみられないことを明らかにした。当該部位の除去により褐変は回避でき、その場合の重量歩留まりは約74%と考えられた(表3)。
6 )「きたねばり」貯蔵期間中の内部品質は、収穫翌年の秋まで大きく変動しなかった(図1)。
7 )各種一次・二次加工を試みた結果、冷凍とろろおよび冷凍とろろのパン生地への練り込みが高評価を得た。また、高乾物率を活かした加熱調理の評価が高かった。
8 )以上から、「きたねばり」青果生産においては、既存のながいもに準じて栽植密度および切いもサイズを設定し、ながいもにおける各種基本技術を遵守することで、高品質生産が可能である。とろろ加工原料としては褐変を考慮し、いも全長に対して先端側1/3を使用する。
4.成果の活用面と留意点
1 )「きたねばり」を導入する産地において、青果生産の際の参考とする。
2 )「きたねばり」を加工・業務原料として利用する際の参考とする。
3 )本成績における栽培試験はながいもを生産可能な圃場で実施し、品質・加工試験は同様の圃場で得られた生産物を用いて実施したものである。
【用語解説】
やまのいも: ながいもの他、いちょういも、つくねいもなどを含む作物名。「ながいも」は流通上、やまのいも類のうちいもの形状が細長いものを指すことから、短根である「きたねばり」を指す場合には「やまのいも」の名称を用いている。
切いも:種苗用のいも(種いも)を切断し、実際に植え付ける大きさに分割したものを指す。
肩部・胴部・尻部: いもの部位を示す。一般的なながいもにおける調製(直径2.5cm 未満の部位を切除)を行った場合の、地上に近い側を肩部、中間部分を胴部、先端部分を尻部と称している。
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