キリン親子あすデビュー、同居まで悪戦苦闘の10カ月間 おびひろ動物園
おびひろ動物園(稲葉利行園長)で昨年6月に誕生したキリンのユメタ(雄、10カ月)が、29日から始まる夏季開園で一般公開される。ユメタやその両親を安全に放飼場に出せるようになるまでには、キリン担当の飼育展示係、片桐奈月さん(35)の悪戦苦闘の10カ月間があった。(近藤周)
おびひろ動物園で昨年誕生「ユメタ」
飼育員苦心の訓練実る
ユメタは父メープル(8歳)と母ユルリ(6歳)の第1子として昨年6月10日に誕生。育児放棄もなく、母子は同じ獣舎内で順調に成長していた。メープルとは別室だが、おり越しの顔合わせを繰り返し、片桐さんから見ても「メープルはユメタへの執着はない様子だった」という。
しかし、8月上旬、屋外の放飼場で3頭初の同居を試みた日に、メープルがユメタにネッキング(首で相手を攻撃すること)し、ユメタが脳しんとうを起こして倒れる事態に。ユメタは数分後に起き上がり、健康状態に問題はなかったが、片桐さんは「3頭を同じ放飼場で同居をするのは難しい」と判断した。
昨年12月に放飼場に繁殖制限のための柵が完成し、メープルとユルリ、ユメタを放飼場で分離することが可能になった。このタイミングでの3頭の公開も期待されたが、キリンたちは慣れない環境になじめず、積雪がある期間の放飼は取りやめた。
思うように公開に踏み切れず、片桐さんは「お客さんに子どもらしいユメタの姿を見せることができるのか」と焦りも感じた。幸いにも長期の室内での飼育期間、3頭は落ち着いており、片桐さんは窓から柵を見せるなどの馴致(じゅんち)訓練を地道に続けた。
そして今月3日。柵が完成してから初めて3頭を同時に放飼場へ出した。最初こそ暴れ方が激しかったメープルだが、2日間連続で外に出すと「だんだんとユルリと一緒にいられないということを認識し始めた」(片桐さん)という。
そこから1週間おきに3日間連続で放飼した。メープルとユメタも柵越しに鼻面を合わせるしぐさを見せ、20日にはユメタが初めて放飼場で採食ができるようになるなど、落ち着いた様子を見せている。長い試行錯誤を経てここまでたどり着いた片桐さんは胸をなで下ろす。
体長約180センチで生まれたユメタは1年もたたずに現在約280センチまで成長。それでも4メートルのユルリ、5メートルのメープルと比べると一回りほど小さく、まだ体も細い。片桐さんは「子どもらしく駆け回るユメタや母親らしい姿を見せるユルリ、そしてユメタを見守るようになり、大人になってきたメープルの姿をぜひ見に来てほしい」と話す。
雨や強風の日は放飼できないが、天気が良い日はできるだけ外に出し、キリン家族を公開する予定だ。
<キリンの繁殖制限>
国内にいるキリンは2022年12月31日現在で187頭(雄94頭、雌93頭)。園館同士で個体の受け渡しを行っているが、17年ごろから雄の搬出が難しくなり、全国で飼育可能なキリンの頭数は飽和状態となった。これを受け、国内のキリンの血統を管理する多摩動物公園(東京)は21年12月、繁殖制限を進めるよう提言。繁殖制限のため雄の去勢手術の方法もあるが、キリンへの麻酔手術はリスクが高く、おびひろ動物園では柵の設置を決めた。