検証~台風の爪痕「避難勧告発令、自治体により差」
帯広 午前2時半・設置35年ぶり戸惑い
幕別 午後10時・人口多く深夜避ける
十勝に大きな被害をもたらした台風10号による大雨災害では、管内12市町が住民に避難指示・勧告を発令した。避難情報の発令権限は市町村長が持つが、今回は帯広市と幕別町が同じ札内川下流域に出した避難勧告が4時間半ずれるなど、自治体によって判断基準やタイミングに違いが出た。過去の国内の大規模災害では判断の遅れが被害拡大につながった例もあり、早期かつ適切な避難情報の発信が改めて地域防災の課題に浮かんでいる。
専門家は早め呼び掛け
台風の影響で大雨が続いた8月30日。札内川は午前10時に札内観測所(帯広市東13南8)で「はん濫注意水位」を越えた。上流の第二大川橋観測所(同大正町)でも午後4時に同水位を越え、翌31日午前2時には「避難判断水位」を上回り、同3時に「はん濫危険水位」に迫った。
札内川右岸に位置する幕別町は30日午後10時、下流域の札内地区3283戸、7244人に避難勧告を発令した。一方、左岸の帯広市が札内川沿いの約1万6370戸、約3万2110人に避難勧告を出したのは31日午前2時半。札内の4時間半後だった。
最終的には首長
水害の場合、河川の水位は自治体の避難情報発令の目安となるが、雨量や堤防の状況などさまざまな情報が総合的に判断の基準となる。内閣府は「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を示すものの、最終的な判断は各首長に委ねられている。
今回、札内川は30日夜の段階では避難判断水位に達していなかったが、幕別町は「(札内地区は)人口が多く、深夜帯にかかるため」と早めの判断をした。
飯田晴義町長は「午後10時はぎりぎりのタイムリミットで、当初から判断する時間と考えていた。それ以上遅いと寝てしまう人も多く、避難情報が伝わらないので、水位上昇の状況を見て判断した」と語る。
一方、帯広市の防災計画では、洪水警報が出るか、はん濫注意水位に達し、市長が必要と判断した場合は災害対策本部を設置する。しかし今回、札内川は30日午前10時までにはん濫注意水位に達し、洪水警報も同午後11時53分に出たが、災対本部設置は翌31日午前2時半にずれ込んだ。
「不在影響ない」
市は「雨の降り方など状況を見ながら総合的に判断した」(総務課)とする。当時、米沢則寿市長は外国出張で不在だったが、「副市長が代行し、市長とも連絡を取り合っていた」(同)と影響は否定する。
ただ帯広市の避難所設置は35年ぶりの出来事。柏木純三総務課長は「災害に慣れていないことが影響し、本部設置、避難勧告など何をするにもちゅうちょがあったことは否めない。早めに勧告を出しておくことが正解だった」と振り返る。
いきなり「指示」
芽室町は30日午後11時半、道の情報を受けて美生川周辺に避難勧告を経ずに避難指示を出した。一方、芽室川には31日午前0時半に避難勧告を出し、約40分後に避難指示に切り替えた。町は「水位の急激な上昇は予想できず、避難準備・勧告を早めに出せなかった」と判断の難しさを語る。
これまで多くの国内の大災害で、避難指示のタイミングは問題視されてきた。昨年9月の関東・東北豪雨の鬼怒川浸水では、市が避難指示を出したのは堤防決壊後だった。2013年に死者・行方不明者39人を出した伊豆大島の土砂災害では、町が深夜のために避難勧告発令を見送った。
夜間の二次災害発生の他、大きな被害がなかった場合の住民の危機意識の薄れを懸念し、判断に迷う自治体もある。災害対策基本法の改正で現在は、市町村長は判断に際して、指定行政機関や都道府県等に助言を求めることができるようになっている。
豪雨防災に詳しい北海道大学名誉教授の加賀屋誠一氏は「避難指示は基本的に深夜になる前に出すのが賢明。夜になると避難する方もちゅうちょする。早めの避難が大事なので、自治体は外れることを恐れずに早期に情報を出してほしい」と呼びかけている。
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