変わるインバウンド(上)「『爆買い』は下火」
体験重視 個人型に
十勝でもインバウンド(訪日外国人旅行者)需要が高まる中、その旅行形態に変化が出ている。大型バスを貸し切って集団で行動する団体ツアーは下火となり、インターネットで航空券や宿泊先などを手配する個人客が台頭。同時に、爆買いといった「モノ」を買う動きは陰りを見せ、その土地ならではの経験や体験を重視する「コト」に消費行動がシフトしている。アウトドア観光のブランド化を見据える十勝の観光にどのような影響があるのか。その可能性と課題を探る。
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きらびやかな光のトンネルを背景に記念撮影を楽しむ中華圏の観光客らで今年もにぎわった、音更町十勝川温泉の彩凛華(1月21日~2月26日)。大型バスで乗り入れる団体客で混雑する一方、ガイドや添乗員を付けずに小人数で行動する個人客の姿が見られた。
宿泊伸び続く 主力は中華圏
「時間に縛られることなく、自由に旅行できる方が楽ですよ」。そう話すのは、友人2人を連れて香港から訪れた羅美徳さん(38)。航空券や宿泊先などはインターネットで手配を済ませたといい、「温泉が好きで十勝に初めて来た。ゆっくり満喫したい」。彩凛華の会場からほど近い温泉街に徒歩で戻っていった。
十勝の観光入り込み客数は、2015年度に1035万9500人(前年度比4・3%増)と1000万人を初めて突破。外国人を含む道外客は262万4000人(同7・2%増)と道内客に水をあけられたが、外国人宿泊客数は13万2389人(同45・5%増)、外国人宿泊客延べ数は18万4938人(同47・7%増)と数字を引き上げた。
16年度上期についても、台風が直撃する前の4~7月は外国人宿泊客数が3万4116人(前年同月比3・17%増)、外国人宿泊客延べ数は3万8358人(同6・9%増)だった。
好調な要因として考えられるのが、個人旅行を楽しむ層の伸びだ。音更町内の十勝川温泉ホテル大平原では、16年の個人客の宿泊者が前年に比べて約1・5倍に増え、台湾、香港、中国からの利用が大半を占めた。帯広市内の北海道ホテルでも、1月1日~2月14日における個人客の延べ宿泊者数が前年同時期に比べて約30%増え、「とりわけ韓国からのお客さまが目に付いた」(山崎隆弘営業推進部門宿泊支配人)とする。
ばんえいや食 「コト」の宝庫
また、移動手段として自由度の高いレンタカーを選ぶ個人客も増加傾向にある。帯広レンタカー協会によると、14年度は180件、15年度は236件、16年度は2月末現在で249件と、既に前年を上回る数字で推移。近年は新千歳空港からレンタカーを借りて道東に足を運ぶケースも増えているという。
背景にはネット予約の利便性に加え、リピーターや団体ツアーを敬遠する旅行者の存在があり、その様相は都市部で顕著に表れている。日本経済新聞電子版によると、16年の訪日外国人旅行者は2403万9000人と前年に比べて21・8%増えたが、宿泊施設の空き室不足などを理由に夜行バスや空港などに寝泊まりするため、統計に含まれない個人客まで増えている現状だ(「統計で『消えた』外国人宿泊客 ここにいた!」より)。
こうした個人客の旅行形態に限らず、消費行動も「モノ」から「コト」へと変化している。十勝観光連盟の鈴木新一専務理事は「世界で唯一のばんえい競馬をはじめ、十勝は観光資源の宝庫。外国からも評価の高い食を生かした体験型に重点を置いて誘致を進めれば、連泊にもつながるはず」とする。増え続ける外国人観光客をいかに十勝に滞留させるか-。その鍵は体験型観光にありそうだ。(小縣大輝)
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