とかち特報部「日勝峠、台風爪痕」
深い谷と土砂 復旧阻む
台風10号による大雨で道路や橋が寸断され、通行止めが続く国道274号の日勝峠。被害から約3週間たった23日、清水町側の7合目から8合目の現場が報道機関に初めて公開された。そこにはアスファルトが崩れ落ち、路肩に岩や流木が散乱する無残な光景が広がっていた。(安田義教)
上り坂の途中で急に切れたアスファルト道路、路肩に寄せられた岩や流木、だらりとぶら下がったガードレールの鋼線…。
橋と道路損壊 清水側4カ所
清水町側で最大の被害だった7合目(標高850メートル)付近の崩落現場。工事用の規制線の先には、あるはずの道路が111メートルにわたり全て崩れ落ち、ぽっかりとした空間が広がっていた。
「大量の土砂と沢の水が流れ込み、路肩を崩していったと考えられます」。案内した帯広開発建設部道路計画課の瓜生和幸課長が説明した。増水した水が土砂を巻き込んで濁流となり、硬い路面を浸食していった。近くには2メートル大の岩もあった。全てを流す水の力に恐怖を感じた。
道開発局によると、日勝峠の区間内で橋は10カ所、覆道3カ所、道路が大きく壊れた場所は6カ所確認された。うち清水側は橋と道路が各2カ所。その他の損壊場所は「多数」で、小規模も含めるとすぐに把握できない数に上る。
実際、7合目に行くまでの車中からも、路肩やのり面が崩れている場所があちこちに見えた。中でも7合目付近と8合目(標高900メートル)付近の2カ所は、道路の全車線が崩れ落ちた。
7合目から上は車が通れないので、山側に設けた作業用通路を歩いて111メートルの崩落現場を越えた。この日は雨で霧がかかっていたが、霧の切れ間に道路が落ちた深い谷が見えた。8合目の看板が見える場所まで歩いたが、奥には80メートルにわたり片側車線が崩れた別の現場があった。「その先は危険です」。帯開建の職員から声が掛かった。周囲にはアスファルト下の土砂が削れている場所もあるといい、危険と隣り合わせの現場だった。
現状維持やっと 開通時期は不明
復旧工事の進捗(しんちょく)を聞くと、「まだ復旧作業とは言えない」と意外な答えが返ってきた。9月1日以降、職員らが現地調査を続けているが、谷の底や沢の上の状況は調べ尽くせていない。また大雨が降れば崩れる可能性があり、被害の拡大を防ぐので手いっぱい。「ぐらぐらの地盤や水が出ている所に手当てしてもまた壊れてしまう。時間がかかる」とし、台風から3週間たった今も通行再開に向けた本格的な作業に至っていないのが現状だ。
では、いつ通行再開できるのか。報道陣の質問もそこに集中した。しかし、帯開建の高橋丞二次長(河川道路担当)は「現地調査が終わってから、どの工法が早くコストが低くできるかを検討する。開通時期は明確に言えない」と語るにとどまった。調査終了のめどについても「7合目から先は車両が入れない。明確に申し上げられない」と繰り返した。
復旧工事には、どれだけの時間と予算が必要なのか。温暖化などの影響で北海道でも大雨が増える予測がある中、再びこの同じルートで通すことは可能なのかどうか。こんな不安が頭をよぎった。
現地調査に時間がかかり、その後は難工事が予想される。清水側だけでなく日高側も複数の橋が流失し、覆道内の道路も壊れている。峠の冬は長く、厳しい。道東と道央を結ぶ大動脈だが、現場を見た限り、少なくとも年内の通行再開は困難と感じた。
日勝峠と台風10号による被害
日勝峠は清水町と日高管内日高町の境にあり、国道274号の一区間。最高地点は標高1022メートル。両町を結ぶ町道の日勝道路として着工し、1965年に開通、70年に国道に昇格した。道東と道央、道南を結ぶ幹線だが、日高山脈の国有林帯を横断、霧や雪などの気象条件に道路環境が左右される難所として知られる。
39キロなお通行止め
国土交通省が設置する日勝峠の雨量計によると、台風10号の接近による総雨量は488ミリ、8月31日午前0時からの1時間雨量は55ミリに達し、観測記録を更新した。道開発局は30日から、清水町清水-日高町千栄の約45・3キロで大雨による通行止めを開始。台風通過後の調査で橋の流失、覆道の損傷、道路本体の大規模な損壊などが複数カ所で確認された。現在も清水ドライブイン先から日高町千栄までの39・5キロが通行止めになっている。