編集余録「多目的航空公園」
帯広市内の書店で偶然手にした本を読んで、うれしくなった。SF集の「沈黙のフライバイ」(ハヤカワ文庫、野尻抱介著)。5つの短編の最後「大風呂敷と蜘蛛の糸」は、大樹町の多目的航空公園を基地とする成層圏プラットホームが舞台だ
▼ネタバレになるので、詳しくは書かないが、北大の女子学生が、同公園から成層圏プラットホームに上がり、そこでロケットを発射する物語。文中にはこうある。「十勝平野の南、大樹町多目的航空公園。町おこしの一環として設立された施設だが、千メートルの滑走路を備え、東側-地球の自転方向-に太平洋が開けているのも好評で、いまでは航空宇宙研究の一大拠点となっていた」
▼もちろん話はフィクションだが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が8日まで同公園を拠点に実施した大気球実験に関する記述もある。そういえば、カール・セーガンの小説「コンタクト」でも大樹は重要な場所として描かれた
▼公園ができた15年前、あったのは砂利を固めた滑走路だけ。最初のころは、いささか宇宙とは遠い実験が多かったように思う。研究者らの理解に支えられ、地道な活動が続いた
▼しかし、今はどうだろう。大気球、CAMUIロケットの打ち上げ、VTOL(垂直離着陸機)実験-まさに隔世の感。小説で描かれているような「一大拠点」に近づいていることを感じる。(高久佳也)
2010.9.10