僕らの地元大樹町~人の気配
僕の地元は南十勝の大樹町である。帯広市内の高校に進学をして下宿生活を始めたので、大樹で暮らしたのは15年ほどということになる。現在、東京に出てきて23年目。年齢を重ねるほどに、大樹での生活期間が人生においては実は短かったと感じている。
しかし、その期間に起きたことは濃密で、生涯忘れることはない。家族はもちろん、クラスの人気者や、いつもひとりで過ごしている人、先生、部活の先輩など、学生のときにさまざまな人と会話をすることで、考え方が少しずつ形成されていく。
後輩にも面白い人がいた。実家が農家で、今は自分が代表を務める坂根遼太さんだ。僕が大樹に帰ったとき、今も連絡を取る友人であり、話を聞くのが楽しみな人物である。話の内容は農業のことが半分、もう半分は彼の人生のことである。農家はいつも同じ場所で仕事をする必要があるため、なかなか新しいことへのアンテナを張りにくい生活だと想像するが、彼の意識は常に外を向いている。自分が頻繁に旅に出られない分、人や物から何かを吸収しようとする意識が高いように感じる。家の敷地にゲストハウスを作り、人を呼び込むこともまた、そういう発想なのだろう。
僕らがお互い20代だった頃、彼が「牛にストレスを与えたくない」という話をしてくれたことがある。もちろん商売である以上、生産性や効率も大事なのだが、その気持ちが前提にある人に育てられている牛は幸せだろうと思った。そして、僕ら消費者の目線としても、信頼のできる言葉だった。
先日、大樹で開催された「第33回清流祭り」に招待され、ライブをしてきた。『おぼろげ』だけど決して消えることのない記憶に、今も大樹で生きる坂根さんとの会話を重ねて歌った。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、最新作『KOKORO EP』に続き、『おぼろげ』がリリースされたばかり。