髪を切ることができる、だけではなく~人の気配
人の気配が漂うところ。それは決してにぎやかとイコールではなく、一対一の関係でも感じることが当たり前にある。例えば美容師が良い例だろう。長くその仕事を続けている美容師には、確実に人の気配がある。
現在、僕の髪を切っているのは、東京・原宿のど真ん中に店舗を構える人気の美容室「tete coquette」の横田茂さん。仲間と一緒に独立し、今や複数の美容室を経営している。その中でも、彼は杉並区永福町にある「はなれ」にいることが多いため、僕は月に1度のペースでその静かな街に通っている。
「はなれ」では基本的にお客さんは一人。会話が止まれば、店内のBGMが気持ちよく耳に入ってくる。それを気まずいと思わせないのも、美容師のスキルなのだと僕は思う。当然シゲルさんもそのスキルを身に付けている。人それぞれにある心地よい距離感。それを自然と感じることができなければ、また行こうと思わないのが客なのである。
撮影の際にスタイリストとして入ってもらうこともある。気心の知れた仲間が撮影現場にいることは、とても心強く、結果的にそれが良い作品にもつながる。当たり前のことだ。「良い音楽と容姿は関係ない」という人がいて、たとえミュージシャン本人が本当にそう思っていたとしても、それを支える人がきっといるし、その本人の気持ちをくんでスタイリングを考えたりもするはずだ。ここでも、ただ髪をきれいにするだけでは人気は出ない。人の気持ちになれてこそ、人の気配が漂うのである。そして話は冒頭に戻る。
一対一のパーソナルな関係。その中での心の動き。最新作の『心たち』でも、その機微について歌っている。人の心について考え続けること。それは一生続いていく人生と同義なのかもしれない。(第2火曜日掲載)
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。大樹小、大樹中、帯広柏葉高卒。バンド・リディムサウンターを経て、2012年にソロデビュー。