67歳の新人漫画家、幕別町のハン角斉さん 初の単行本出版
【幕別】幕別町札内で柏整骨院を営む同町在住のハン角斉(本名・三浦吉文)さん(67)が昨年10月、小学館から自身初の漫画単行本「67歳の新人 ハン角斉短編集」を出版した。仕事の傍ら、応募した漫画の賞に20回以上落選。それでも還暦を過ぎて漫画家デビューの夢を実現した。
漫画雑誌「ビッグコミックスペリオール」で2020年、21年、22年に掲載された作品に書き下ろしを加えた6編を収録。影のある主人公の悲哀に満ちた物語や男性の妄想、不条理な日常などを独特のタッチで描いている。
挫折や落選越えて
1955年新得町生まれ。新得屈足小、大樹中、大樹高を経て東京へ。鍼灸(しんきゅう)、指圧・マッサージなどを学び29歳で帰勝。芽室町、帯広市で整骨院を開いた。現整骨院は6年ほど前から営んでいる。
夢は漫画家になることだった。学生時代に投稿したこともあるが「絵に個性がなく、物語が作れない」と挫折した。
再度描き始めたのは45歳のころ。絵のうまさで尊敬していた漫画家池上遼一さんの20代の作品を見て、現在の絵とのギャップに驚いた。「どんな人物を描きたいか強く思うことが大切で、努力をすればここまでの領域に行けるのか」。雷に打たれたように感じた。
味のある人物像と流行に左右されない物語を意識し投稿した。それでも1次審査で落ち続けた。ただ「一作描くごとに絵や物語の展開などで成長している実感があった」とペンは止まらなかった。
短編集に収録されている「眠りに就く時…」が転機になった。2019年の「小学館新人コミック大賞」で初めて1次審査を突破。「自虐の詩」などの漫画家業田良家さんが高く評価し、奨励金10万円を獲得。初めて担当が付いた。
次の「山で暮らす男」がヤングスペリオール新人賞で「編集長金一封」の50万円を獲得。20年のスペリオール21号に掲載された。「入選や佳作ではなかったが、初めて雑誌に載せてもらえた。本当にうれしかった」と振り返る。
現在は漫画家の9割がデジタルで描くといわれる中、ペンで愚直に、丹念に描き込む。担当する同誌副編集長の小鷲夏之さん(48)は「執念がこもった異様とも思える描き込みに目がくぎ付けになる。独特の世界観、人生観にもひかれる」と魅力を語る。単行本は3刷目で「自分ももう一度夢を追います」などの感想が寄せられているという。
「やめる理由ない」
30ページの作品に約2カ月を要する。昨年10月に大腸がん(ステージ1)の手術を受けた後も、作業は午前2時ごろまで及ぶ。締め切りが迫ると、整骨院を休業するため「漫画の原稿料をもらっても、プラスマイナスでは収入が減る。我慢してくれる妻に感謝したい」と話す。
憧れの池上さんは78歳で現役。「67歳でもまだまだ新人。これからも人間の本能的な部分を描きたい。漫画が好きで、やめる理由はないから」と意欲は衰えない。(松村智裕)