麻酔なしでキリンの削蹄に成功 おびひろ動物園でハズバンダリートレーニング進む
おびひろ動物園(柚原和敏園長)は、動物の健康管理に向けて削蹄(さくてい)や体重測定が行えるように慣らす「ハズバンダリートレーニング」に取り組んでいる。中でもアミメキリンは、この秋、道内では過去に例がない麻酔なしでの削蹄に成功した。展示飼育係の「健康に長生きしてほしい」との思いや、長い時間をかけて培ってきた動物との信頼関係がそこにある。
担当展示飼育係の片桐奈月さん(33)が笛で合図すると、キリンの「メープル」(雄、6歳)がゆっくりと右後ろ足を台に載せる。足の様子を見ながらやすりを掛け、異常がないかを確認して終了だ。
キリンのトレーニングは片桐さんが担当に就いた3年前に始めた。ターゲット棒(指示棒)に鼻を付ける、柵へと体を寄せるなど一つ一つの動作をクリアするごとに、餌を与える。繰り返し行うことで、少しずつ覚えていくという。
メープルは削蹄に成功する前、右後ろ足のひづめが変形し始めていた。命にも関わるひづめのケア。柵に体を寄せ、足を上げるところまでは進んだが、ひづめを返して裏を観察することができなかった。
転機は今年9月、大森山動物園(秋田市)でキリンを担当し、トレーニングのスペシャリストと称される柴田典弘さんが帯広を訪れたことだった。トレーニングの進捗(しんちょく)や健康状態を確認してもらい、無麻酔での採血に成功。柴田さんの指導を受け、後日、ひづめを返してやすりを掛ける削蹄も初めて行うことができた。
少しずつ作業を進め、厚くなっていた外蹄を削ったことで内側への傾きを正常に戻すことに成功した。現在も3人体制で週に2、3度、メープルと「ユルリ」(雌、3歳)のトレーニングを進める。ユルリもひづめが伸びやすいことが分かり、来シーズンの削蹄を目標にする。
メープルの場合、ひづめの変形を放置していたら関節の変形は免れなかったという。
動物たちの健康の一助を担うトレーニングだが、一朝一夕にはできない。3年間、メープルと向き合い、トレーニングを重ねてきた片桐さんは「技術の伝承」を課題に挙げる。「動物のために技術を確立させ、伝えていくことは大切。伝承には時間が必要で、経験値が技術の磨き上げにつながる。公務員ではあるが、改めて飼育技術者であることを思い知らされた」と話している。(松田亜弓)
動物の協力の下、採血や治療などができるようにすること。動物への麻酔はリスクが高く、トレーニングを重ねることで動物のストレスを軽減し、健康管理ができるというメリットがある。おびひろ動物園では3年ほど前に始め、キリンのほか、ゴマフアザラシやライオン、ラマなどで取り組んでいる。