「安全と振興、両立の視点を」 インターン生が見た日高山脈・伊藤翔和
「お母さん今死んでしまうなんて残念だ」。帰路の車中、山の稜線(りょうせん)を目で追いながら、日高山脈山岳センターで見たあの手紙を思い起こした。
十勝毎日新聞社が就活生を対象に行うインターンシップの一環で26日、札内川園地キャンプ場(中札内村)にて取材体験があった。十勝内外に在住の大学生5人が参加した。
札内川園地キャンプ場は日高山脈で2番目に高いカムイエクウチカウシ山(1979メートル)へ通じる登山道路の途中にある。日高山脈については近年、国立公園への新規指定を目指し、地元自治体による機運の醸成が行われてきた。
同キャンプ場でも今季の営業から新しい取り組みが始まった。家具や電気、水道などを備えたモバイルハウス「住箱(じゅうばこ)」の設置だ。気軽にアウトドアが楽しめる「住箱」の設置で、コロナ禍を受けて密集や密接を避けるレジャーとして注目されるキャンプ需要を通し、日高山脈の魅力向上が期待される。
一方、キャンプ場内にある山岳センターは、日高山脈の自然の脅威を人々に知らせている。
数ある事故のうち、日高山脈を縦走する最中に雪崩に巻き込まれ、大学生6人が死亡した「十の沢遭難」(1965年)についてはリーダーを務めた学生の遺書が展示されている。先の見えない中、家族を思い、死の寸前まで埋もれた雪を掘りながら書いた文章は、手紙を読む後世の人々に無理な入山を戒め続ける。
手紙の最後には次のようにある。「切角背広も作ったのにもうだめだ」。彼の年齢は今の私と同じだ。背広を着、彼が達せなかった未来を生きる私の身がつまされる思いがした。地域振興は大切な視点だが、一方で安全が忘れられてはならない。両者のバランスをとった国立公園への道が望まれる。(伊藤翔和)