アブの捕獲器具開発、十勝に魅せられた米国人発明家のパトリックさん
【清水】十勝の自然に魅せられて-。外国人の設計技師が日高山脈の麓でひっそりと暮らしている。米国出身のパトリック・マクグラスさん(74)は、里山に溶け込む人の営みと温かさに引かれ、2010年に清水町旭山に自身の設計で家を建てた。「問題があったら解決しなければと思うのが私の性分。一生を開発に捧げてきた」と語る生粋の発明家だ。(小野寺俊之介)
庭にずらりと並んだ20台の照明器具のような装置。最新作の「アブトラップ」だ。温度の高いものに集まるアブの習性を利用し、日光で熱を帯びた中央のバルーン部分に吸い寄せられたアブを上部のケースで捕獲する。販売に向けた最終テストを自宅で行っている最中で、今夏に量産化し、日本をはじめ世界各国で販売する。
林に囲まれた自宅はアブが多い。「昨年の夏、庭で刺されて腕がすごく腫れた。悔しくて、それで設計したんだ。大量のアブの捕獲に成功したから効果はお墨付きだよ」とおちゃめに笑う。
特許を米で11件 日本で2件取得
米オレゴン州出身。工科系大学の最難関クラスに位置付けられるジョージア工科大を卒業後、自動車メーカー「フォード」にエンジニアとして勤めた。台湾への転勤を機に、40代で独立。現在は台湾で工業、医療製品などを輸出する工場を経営する。発明家としてはスマート水道メーターなど米国で11件、日本で2件の特許を取得している。
休暇で北海道を訪れた際に十勝のとりこになった。「豊かな自然、ゆっくり流れる時間。ここでのライフスタイルは特別だと感じた」
清水町に家族3人で暮らし、台湾と清水を往復する生活を送る。この夏、国立公園化する日高山脈襟裳十勝国立公園の観光客向けに、自宅をレストランとして貸し出すことも計画。そのそばに新たに住居を構え、そこに移り住むことも考えている。
作業支援ロボの会社起業が目標
事業目標は「パイロットロボット」と呼ばれる作業支援ロボットの導入、普及を進める会社の起業だ。構想では5Gや6Gの高速回線を使い、海外の熟練労働者が遠隔操作でロボットを操作し、日本の介護施設や工場、農場などで作業に従事する。AIを搭載した完全自立型のロボットに比べ、価格は10分の1~20分の1程度に抑えられるという。
「効果を立証できるロボットの1号機が完成すれば、その先の全ての課題に解決策はある。日本のような労働力不足の課題を抱える国でこの技術を確立することができれば、労働者を移住させることなく、課題を解決することができる」
日本の社会課題に熱心に取り組むのは恩返しの意味合いもある。「清水に暮らしてから日本の方々に本当によくしてもらった。素晴らしい友人もできた。だからこそ、困っていることがあれば改善する手助けをしたい」。74歳のアメリカ人発明家が、集大成の研究に情熱を傾けている。