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命の管理~未来へつなぐ(2)「ようやく同居も子ども誕生に課題が山積 キリンのメープルとユルリ」

現在は仲良く暮らす(左から)メープルとユルリ

 顔を近づけたり、一緒に餌を食べたりと仲むつまじく-。おびひろ動物園のアミメキリン、メープル(雄、6歳)とユルリ(雌、4歳)。繁殖を目指し、2019年にユルリが来園してから約2年半がたった。今はすっかり仲良しな2頭だが、こうした関係に至るまでは長い道のりがあった。

当初は拒絶反応
 ことの始まりは2019年秋、ユルリが嫁入りしたことだった。キリンはもともと群れで暮らす動物で、以前から同園は全国のキリンの移動を調整する管理者へ雌1頭を希望していた。数年越しに縁談が決まり、多摩動物公園(東京)から遠路はるばる訪れたユルリ。歓迎ムードに包まれる中、メープルはユルリに攻撃し、拒絶反応を示したのだ。

 メープルは帯広で生まれ、1歳の時に両親が相次ぎ死んでからは1頭で育ってきた。関連性は分からないが、「キリンは攻撃的な動物ではなく、メープルも穏やかな性格だと思っていたので驚いた。おびひろのキリンのペアは順調にいった事例しかなく、想定していなかった」と担当する片桐奈月さんは振り返る。

片桐さんの指示の下、体を柵に近づけるユルリ。体に異常がないかを見たり、触ったりして確認できるようになるため、妊娠時にも役立てることができる

 重要なのはメープルがユルリを受け入れること。キリン飼育の第一人者柴田典弘さん(秋田県大森山動物園)から「十分なお見合いが大切」とアドバイスを受けたが、室内獣舎ではおり越しに顔を合わせることしかできない。そのため急きょ、屋外と室内を仕切る扉を新たに設けた。

 屋外にメープル、室内にユルリと分け、2頭の間に餌を置いた。最初はメープルがユルリを気にして食べなかったが、一歩ずつ距離が縮まっていく。「メープルのユルリへの執着が消え、何をしても気にしなくなることを目指した」と片桐さん。同居のタイミングを見誤ればけがにつながる。慎重に事を進め、8カ月後、ようやく同居がうまくいった。

 その後はけんかもなく、ユルリは昨年12月から発情が始まり、メープルが後を追う様子も見られた。一方、子どもの誕生が現実的になるにつれて、新たな課題も生まれた。

保育に不適な獣舎
 「子どもが生まれても、他園に受け入れ先がない」ことだ。ユルリが来た頃は受け入れられる動物園があったが、全国的に出産ラッシュがあり、雄ばかり生まれていた。「もし雄が生まれたら確実に行き場がないし、雌でも難しい」。動物園側の事情が縁談当時と変わってしまったのだ。

 では、家族3頭で暮らせないのかというと、獣舎の問題がある。室内獣舎は2部屋のみで、子育てが終わる約2年後には転出が望ましくなる。メープルの兄スカイは1歳4カ月で釧路動物園へ移動している。

 加えて、今の部屋数が少ない獣舎では出産時の不安もある。キリンの初産は人工保育の可能性が高い。おびひろでは事例はないが、ユルリの母の初産は人工保育だった。「生まれた後を考えると暗い。うちの獣舎では課題が多すぎる」。築約50年の老朽化した獣舎は建て替えが理想だが、多額の費用が掛かるため市民の理解や市の判断が求められる。

 それでも妊娠に備え、体に触れるトレーニングや、昨秋から室内と室外に24時間カメラを取り付け、日々の行動観察に力を入れる。片桐さんは「妊娠や体調不良の時、行動観察の記録が生かされる」と話し、園側の事情で動物たちが振り回されることへもどかしさを感じながらも、日々できることを積み重ねている。(つづく、松田亜弓)


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