名前は「とかち」 札幌の宮西さんが飼い主に 頭に容器 保護の犬
頭にプラスチック容器がはまった状態で歩いている姿からSNS(インターネット交流サイト)上で話題となり、6月下旬に帯広市内で保護された犬は、5日までに飼い主が決まり、札幌市で新しい暮らしを始めた。飼い主に名乗り出たのは、道内各地の迷子犬などを引き取って育てる宮西雅子さん(札幌)。帯広保健所の犬舎でおびえた様子を見せていた犬に、「とかち」と名前を付けた。
頭にプラ容器がはまった犬が、帯広市昭和町で目撃されたのは6月22日。住民が「助けてあげたい」とSNSに写真を投稿すると、全国に情報が拡散。市内有志や市都市環境部環境室の職員ら10人が捜索に参加し、同26日に無事保護した。
犬を捕まえ、容器を外してあげたのは市内の三谷匡勝さん(56)。本州の保護団体から連絡を受けた宮西さんが、三谷さんに保護を依頼。理容師の三谷さんは仕事の合間を縫って大正地区に通った。
発見当初の「とかち」は飲み食いができず、元気のない様子だったが、人が近づく気配がすると畑に入ってしまい、なかなか助けられなかった。1週間もすれば、命が危ないと聞かされていた三谷さん。弱りかけた「とかち」が26日に迷い込んだ以平町の防風林は私有地だったが、「自分が助けなければ」と思い切って近づき、抱き上げた。
帯広保健所の獣医師花房裕輔さんによると、性別は雄で、年齢は推定で5~6歳。目立った病気やけがはなかった。茶色い首輪が付いていたが、元の飼い主は見つからなかった。
新しい里親の募集が始まった3日、宮西さんは三谷さんと共に同保健所に駆けつけた。札幌で犬の介護施設「逢犬はうす」を運営する宮西さんは「安心できる場所に帰るんだよ」と語りかけ、新しいリードと首輪を付けた。
「今、8~9頭の世話をしているが、どの子もわが子のようにかわいい。十勝の人たちに、優しい瞳を取り戻した『とかち』を見せたい」と宮西さん。温かい手に抱かれた「とかち」は同日、新しい生活の場所へと出発した。
「犬もごみも捨てるの人」
決して美談ではない-。全国の人がSNSでつながり、1匹の犬を救った今回の保護劇。表面だけなぞればSNS時代の心温まる話だが、「とかち」を近くで見守った人たちは口々に複雑な胸中を語った。
助けた三谷さんと、引き取った宮西さんは「犬を捨てるのも人間、ごみを捨てるのも人間。みんなで助けようと声を上げるのも人間」と悲しげに笑った。SNSには、プラ容器がはまった「とかち」を「間抜け」とあざ笑う書き込みもあった。
帯広保健所で飼い主が現れるのを待った花房さんは「今回はたまたまSNSで話題になったから命は救われた。見えない所では、もっとひどい目にあっている犬はたくさんいる」と厳しい表情を見せる。
獣医師の花房さんは、飼い主が現れず、殺処分となる犬を自ら手にかけたことがある。苦しまないよう麻酔をかけ、筋弛緩剤を打って処置を施すそうだ。
花房さんは「そんなことを回避するためにも、ペットは責任を持って飼わなければならない。犬を飼うときはしっかり鑑札登録をして、万一、いなくなっても決して捜すことを諦めないでほしい」と訴えた。(奥野秀康)