小麦なまぐさ黒穂病防除対策の決定版
道総研 中央農業試験場 病虫部 予察診断グループ
道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ
1.背景と目的
道内の秋まき小麦で広域に発生したコムギなまぐさ黒穂病(Tilletia controversa)については病原菌の特性と耕種的防除法が明らかになっている(令和2年普及推進事項)。しかし、各品種の感受性や近縁作物への感染性、効果的な薬剤防除対策が不明であり、生産現場からはそれらの情報と対策が求められている。本病による被害を低減するため、各品種の感受性および効果的な薬剤の処理法を明らかにし、耕種的防除法と組み合わせた防除技術を確立することを目的として実施した。
2.試験方法
1)品種による発病程度の違い
2)病原菌のレース
3)病原菌の宿主範囲
4)薬剤による防除
5)耕種的防除との組み合わせによる防除実証
3.成果の概要
1)品種による発病程度の違い
道内で栽培されている品種はすべて発生するが、発病程度には品種間差が認められ、主要4品種では「キタノカオリ」>「ゆめちから」>「つるきち」>「きたほなみ」の順で発病しやすい(図1)。
2)病原菌のレース
海外の抵抗性遺伝子保有品種に対して病原性の異なる菌株が一部に認められたことから、道内に複数のレースが存在する可能性が示唆された(データ略)。
3)病原菌の宿主範囲
道内で発生しているなまぐさ黒穂病菌を接種したところ大麦は発病しなかった。一方、ライムギおよびライコムギは発病するが、ライムギの発病穂率は極めて低い。また、北海道の主要な牧草(オーチャードグラス、ペレニアルライグラス、リードカナリーグラス、チモシー)は発病しなかった(図2)。
4)薬剤による防除
種子塗沫剤であるイプコナゾール・イミノクタジン酢酸塩水和剤Fは一定の防除効果(防除価20~69)が認められた(データ略)。プロピコナゾール乳剤は一定の効果が認められ、11月上~中旬の散布で効果が高かった。一方、フルアジナム水和剤Fは散布適期の幅が長く、10月下旬~11月中旬の散布で高い防除効果が認められた。なお、播種後から10月中旬および根雪直前の散布では防除効果が劣る事例が認められた(図3)。
5)耕種的防除との組み合わせによる防除実証
イプコナゾール・イミノクタジン酢酸塩水和剤Fによる種子塗沫と適期・適深播種にフルアジナム水和剤Fの茎葉散布を組み合わせることで本病に対し高い防除効果が得られる(表1)。
4.成果の活用面と留意点
1)フルアジナム水和剤 F の根雪前散布は雪腐病との同時防除が可能である。
2)本成果を反映した「コムギなまぐさ黒穂病 Q & A」の改訂版を令和3年2月に公表した。
3)本課題は「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」により実施した。
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