加工用ばれいしょをたくさん穫るための窒素施肥法
道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ
1.背景と目的
加工用ばれいしょでは土壌診断に応じた窒素施肥量が示されているが、単純な基肥の増肥は窒素利用率低下により十分な増収効果を示さない場合がある。本試験では、地力が低く、総窒素施肥量12kg/10a 以上が必要と評価されるほ場に対し、安定多収栽培のための分施技術と、被覆尿素肥料を用いた省力的な施肥法を開発した。
2.試験の方法
1)分施技術の検討
総窒素施肥量12kg/10a における分施割合(基肥 + 分施 kg/10a)は、12+ 0、9+ 3、6+ 6の3段階で検討した。分施時期は分施割合9+ 3の培土前と培土後の2時期を検討した。試験は前作てんさい以外の低窒素肥沃度な圃場で行い、供試品種はトヨシロ(中早生)と、品種比較に早晩性の異なる3品種を用いた。
2)被覆尿素肥料を用いた施肥法の検討
肥料埋設試験により、被覆尿素肥料リニア型15日タイプ(CR15)、同20日(CR20)、同25日(CR25)の3種類から加工用ばれいしょに適した肥料を選定した。栽培試験ではCR20、CR25を用いて総窒素施肥量12kg/10a で基肥に占める配合割合25%、50%の2水準で検討した。供試圃場、品種は1)と同様である。
3.成果の概要
1)分施割合の6+ 6前区は茎葉繁茂期の茎葉重が12+ 0区より少なくなる場合があり、上いも収量や規格内収量も少なくなった。9+ 3前区では茎葉繁茂期の茎葉重は6+ 6前区より多く、収穫時の窒素吸収量と規格内収量は12+ 0区を100とした比で107と多く、でん粉価は概して9+ 3前区で高い値を示した(表1)。
2)分施時期では培土後の9+ 3後区で茎葉繁茂期の茎葉重が減少し、規格内収量が少なくなる場合が見られたのに対し、培土前の9+ 3前区は安定して多収であった。また、でん粉価は9+ 3前区で高い値を示した(表2)。
3)肥料埋設試験の結果、被覆尿素肥料 CR15は培土前までに全窒素の77%が溶出するのに対し、CR20、CR25は培土~開花期の溶出が各々27%、39%で、茎葉の生育が旺盛な時期にも窒素が溶出していた。
4)被覆尿素肥料による栽培試験では、上いも収量は概して配合割合50%より25%で多く、25% CR25区の規格内収量は12+ 0区を100とした比で105となり、分施と同等の収量、品質が得られた(表2)。
5)分施や被覆尿素肥料の施肥法は、塊茎の平均1個重が大きくなる傾向を示し(表2)、小さい塊茎の肥大により規格内の塊茎数が増えていた。また、両施肥法は培土から開花期の土壌中無機態窒素含量が高く(図1)、この時期の窒素が茎葉の光合成能を維持し、塊茎肥大に寄与すると考えられた。
6)早生品種では分施による増収効果が示されない場合があるのに対し、中早生~中晩生の品種は分施および被覆尿素肥料による施肥法で平均5%程度の増収効果を示した(表3)。
7)現地試験でも基肥9kg/10a+ 培土前分施3kg/10a(分施割合25%)および被覆尿素肥料 CR25を基肥に25%配合した全量基肥施用で12+ 0区より規格内収量が多く、でん粉価も高い値を示した。
8)分施は作業時間が増えるため、導入の際は作業競合の可能性を勘案する必要がある。被覆尿素肥料による施肥法では肥料費が増加するが、増加分は5%増収で回収可能であり、省力的で大規模経営にも導入できる。
4.留意点
1)前作がてんさい以外で総窒素施肥量12kg/10a 以上の場合に活用し、品種は中早生~中晩生とする。
2)分施は早期培土には適用しない。また、分施後はできるだけ早い培土の実施が望ましい。
【用語解説】
品種の早晩性:収穫期となるまでの栽培期間で相対的に決定された品種固有の特性で、成長の早い早生、遅い晩生、その中間を中生とする。
被覆尿素肥料:樹脂で尿素をコーティングして溶け出す早さを調整してある肥料で、CR の R は溶出タイプがリニア型で埋設初期から溶出が進むことを示し、数字は25℃の定温水中で窒素が80%溶出するまでの日数を示す。土壌中の溶出は pH の影響は低く、温度に影響を受ける。
上いも・規格内収量:本試験では1塊茎重20g 以上の合計を上いも収量とし、1塊茎重60~259g の合計を規格内収量とする。
本技術内容についての問い合わせ先
道総研上川農業試験場 生産技術グループ
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