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【座談会】TPPと十勝農業

農業新技術 十勝農業記事ハイライト2013 


 安倍晋三首相が環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明し、関税撤廃を原則とする協定によって十勝農業は今後、かつてない影響を受けることが懸念されている。十勝毎日新聞社は2013年3月29日、帯広市内の本社で「TPPと十勝農業」をテーマに座談会を開催。行政や農業団体・農業者、農業関連業種、十勝のシンクタンクという立場で4人を招き、十勝経済への影響や、国への農業対策の要請内容、備えなどについて話し合った。司会は十勝毎日新聞社編集局の近藤政晴局長が務めた。








【出席者】
司会 十勝毎日新聞社 編集局長 近藤 政晴
十勝総合振興局長 橋本 博行氏
北海道東部農産物移輸出協同組合理事長(丸勝社長) 梶原 雅仁氏
JA忠類組合長 指導農業士 多田 智氏
帯広信用金庫 地域経済振興部長 秋元 和夫氏
※左から順に

司 会 TPP交渉参加を表明した。率直な感想を聞かせてほしい。

橋 本 本当に残念だという気持ち。政府から国民に情報提供が不十分な中、特に農業王国の十勝は、農家や経済界など皆さん不安を感じていると思う。道ではこれまで国に対して高橋はるみ知事が先頭に立って再三、十分な情報提供と国民的議論をすることや、国民合意、道民合意がないままに交渉に参加しないよう要請してきた。
 農業は十勝、北海道にとって根っこになる産業。農家が安心して希望を持って営農できるよう、今後も知事を先頭に全力で取り組む。

多 田 TPP参加への前触れがあったので、発表の時はやはりかという感じだった。TPPは米国スタンダードの押し付けで、不平等さを感じ、絶対反対の運動を続ける。グローバル化の流れはある程度受け入れていかなければならないのは農家も認識している。関税を残すEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)などで進められなかったのか。

梶 原 雑穀商の業界としては30年前から豆の自由化の話が出ていた。民主党政権時代からTPPの話が出てきて、今まで延期されてきたが、とうとう自由化になるのかという感じだ。

秋 元 既存制度や枠組みを変え時代の変化に応じて見直しをするのは正論だが、今回は、その判断に至る検討の経緯や経過が私たち国民には見えてこない。性急で先が見えない中の無謀な決断だと思う。

司 会 TPPにはどのような懸念を抱いているのか。

橋 本 十勝は農業を中心に乳業、でんぷん、製糖の各工場があり、農業機械、肥料、飼料の製造・販売もあり、農業に何かあると関連産業と地域経済全体にも影響がある。
  2年前の十勝総合振興局の試算では、小麦や酪農など6品目の関税撤廃により関連産業も含めて5037億円減の影響額となり、十勝全体の産業産出額1兆9000億円の4分の1に当たる打撃とみている。

多 田 十勝の農家はTPPによるダメージが大きく、離農が増えそうだ。ただ、十勝の農家は考え方が進んでおり、何とか全滅はないという期待感を若い農業者には話し、鼓舞している。農家よりも周辺の産業が影響を受けると思う。

梶 原 小豆は関税割当制度(国内需要量と国内生産量の差による必要輸入量を低関税率で輸入し、それ以上の数量は高税率で国内生産者を保護する)で守られているが、TPPで同制度がなくなる。十勝産は生産者手取りで60㌔当たり2万円強で、カナダ産は同7000~8000円と、十勝の生産者が太刀打ちできる価格ではない。
  同制度の中で中国やカナダから輸入されているが、中国産は安い菓子やパンに、道産は高級和菓子にとすみ分けがある。しかし、デフレ傾向の中で少しでも安い物が求められ、味があまり落ちないカナダ産を道産の代替品や、道産に混ぜて使う傾向が強くなっており、面積にも余力があるカナダが北海道の代わりに栽培することが現実的にあり得る。

秋 元 日本の人口は将来大きく減少すると見込まれており、TPPは地域の経済・社会をさらに深刻な事態に追い込む。大事なのは農業も含め、それぞれの地域が得意とする産業の大胆な振興策をとることだ。TPPは1次産業以外のための産業振興策である。

司 会 国に求める農業対策は。

多 田 農業関連産業も多く、農業対策だけすれば十勝は大丈夫という時代ではない。十勝で暮らす35万人が良い形で潤う政策を求めたい。小泉純一郎政権下で地方と都市の地域格差が問題になり、政権交代につながった。安倍首相は輸出産業中心の景気回復政策を取っており、TPPはそれに拍車を掛ける。小泉政権の二の舞になるのでは。

梶 原 日本の農業対策は米が基本。米の政策を他の農作物に当てはめるから無理がある。TPPで潤った産業から、打撃を受けた産業にお金を配分する仕組みもつくらなければ。国が輸出だけ伸ばし、食べ物は知らないということでは未来への発展はない。TPPに反対するだけでは一般の人に受け入れられなくなる。こちらから提案していかないと。

秋 元 国は、全国一律の政策から地域の特性を重視した政策に転換すべきだ。
  政策立案する人も地方の実情を知る機会がないのかもしれない。十勝のことをよく理解した政府に近い学者などを増やしていく必要もある。次の世代に日本をどう受け渡していくのか、政策には長期、超長期のビジョンが不可欠。TPP参加表明容認と思われたら困るが、十分な周知期間や経過措置も重要だ。

橋 本 これまで守ってきた品目の関税を引き続き維持するよう求める。輸入品からの関税や調整金を失うと国が対策を行おうにも財政的に非常に厳しい。影響が生じる場合は交渉からの撤退を求めるしかない。
  一方、TPP参加のいかんにかかわらず、農業振興対策は重要。基盤整備、研究開発、担い手支援、付加価値向上、6次産業化などの支援は引き続き求めていかなければならない。

司 会 十勝のTPPに備えた対策についても聞きたい。

秋 元 十勝で農水産物の加工度を上げようと思っても機械設備がない。地域にとって必要な機械設備をもつ食品加工メーカーを支援し育てること、農産物を多様化し付加価値が高く市場ニーズのあるものをつくること、JA女性部の食品加工の動きを事業化につなげることなどが必要である。

橋 本 TPPにかかわらず農業を発展させるためには、まずは安全・安心なものをしっかり供給すること。畑作は4品の輪作が基本だが、最近は小麦が増える一方、栽培の手間が掛かるビートやジャガイモが減少し、作付けバランスの崩れが心配。作業の省力化の技術や、地域での農作業支援システムの構築が必要だ。
  もう一つは全国の消費者に、十勝の農業・農村の魅力を知ってもらう取り組みを進めて、生産者と消費者との距離を本気で近づけていくことが大切だ。

梶 原 食の安全・安心を進めていくことだ。JGAP(日本農業生産工程管理)制度、クリーン農業や有機JASを見える形にして、十勝の農畜産物が海外産とは違うことをはっきり分けていきたい。十勝の観光と食をきちんと結び付けて、食料供給基地としての十勝の存在を認めてもらう努力をする必要がある。

多 田 6次産業化で農家が販売するというのではなく、農家、農協、商業者が連携して出資し、十勝全体で6次産業化し付加価値を付けることだ。異業種交流や共同の取り組み、雇用やアウトソーシングを進め、十勝全体で今の生産構造、生活環境が成り立っていることを理解し合うことが大切だ。

司 会 攻める十勝の農業の在り方をどう描いているのか。

梶 原 特定保健用食品の認可は大企業しか取れないため、北海道フード・コンプレックス戦略総合特区(フード特区)で食品の機能性表示の認可がされれば活用できる。十勝の農産物は既にレベルが高い。使いやすい補助金制度をつくれば、農業を強くできる。

多 田 日本の良い品質の物を輸出して、安い輸入品を買って食べているのは変だ。攻めの農業は輸出すれば良いということではない。農家は今まで以上にコスト低減に取り組む必要がある。

橋 本 輸出して攻めていけば十勝の農業は大丈夫ということではないが、輸出の取り組みは否定されるべきものではない。振興局は4月1日に「とかち食推進室」を設置し、生産から販売まで窓口を一元化して高付加価値化や輸出含む販路拡大などを応援する。
  今後、世界の食料需給が逼迫(ひっぱく)する中で、農業の価値はますます高まり、十勝の役割は今以上に重要になる。気持ちを一つにして前向きに進むことが大事だ。

秋 元 まずは足もとの国内市場を重視し、その先に輸出の促進を展望することが必要。国内では大都市圏にこだわらず、価値を認めてくれる地域に売ることも重要だ。
  ただ、相手地域の経済力を奪い取るばかりでは双方の持続的発展はない。相手の産業のことも考えないと。食育や生産者の思いを伝えることも大事。循環型農業の構築、自然・再生エネルギーの活用も進める必要がある。

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