コロナ感染者を運ぶタクシー 運転手の苦悩
帯広保健所の委託を受け、新型コロナウイルスの感染者を移送するタクシー会社がある。防護服に身を包み、患者を病院などに運ぶ50代の男性運転手は「いつも背中に危険を感じて運転している」。コロナ禍は3年目。「政府のまん延防止(等重点措置)や緊急事態宣言が解除されるたびに『もうすぐコロナは収束するのでは』と期待し続けてきた。精神的には疲れている」と長引く現状を憂いている。(松村智裕)
保健所は市内のタクシー会社2社に感染者の移送を委託。2020年11月から対応している同社では、ワンボックスカー2台を感染者専用のジャンボタクシーとして使用している。社名ロゴなどが入っていないため、外観ではタクシーとは分からない。
手伝いもできず
運転席側と後部座席側の間はビニールシートで完全に遮断し、ともに空気清浄機を備えている。3人が専用運転手に選ばれ、他のタクシー車両には乗っていないという。
感染者の移送については、保健所から原則として前日に連絡が入る。
運転手は当日、保健所で防護服に着替え、患者の自宅などへ向かう。感染対策のため、運転手は車外に出ない。「入院用に大きな荷物を抱えて乗り込む人も多い。ただ、トランクに荷物を積むお手伝いさえできない。申し訳ない気持ちになる」と前述の運転手。
病院や宿泊療養施設などに到着すると、再び保健所に戻り、そこで防護服を脱いで車内消毒を行う。
お悔やみに名前
出発時に渡される感染者の資料は保健所に返して手元には残さない。ただ、患者の名前や住所が運転手の記憶に残っていることはある。「感染者を運び始めたころ、病院に連れていった人の名前が2週間後に新聞のお悔やみ欄に載っていたことがあった。ビニールシートを挟んで後ろにいた人が、こんなにあっけなく死んでしまうなんて-と恐ろしくなった」と振り返る。
ただ、「コロナ禍が始まったころのほうが重症化しやすかったのかもしれない。オミクロン株になってからはそういったケースはない」と話す。
専用車両以外で感染者を乗せる場合も。ある50代の女性運転手は「『病院まで』と言われて乗せた人が、実はPCR検査をするためだと分かったのは乗車してからだった。正直怖かった」と胸の内を語る。「それでも仕事をしないと生活はできない。店は休業しても国からお金をもらえるが、タクシー運転手はそうじゃないから」。コロナの影響で出歩く人が少ない状況が続き、タクシー業界の厳しさに拍車を掛けている。
昨年10~12月は十勝管内からコロナ患者がほとんど出なかったため、専用車両の出動も限られていたものの、今年に入って再び増加。同社からはタクシー運転手の感染者を一人も出していないが、十勝の新規感染者が100人以上の日が常態化する中、危機感は募る。
専用車両2台は連日ほぼフル稼働。男性運転手は「今まで乗せたコロナ患者は何百人にもなる。大変だが誰かがやらなきゃいけない仕事。一種の社会貢献だと思っている」と自らに言い聞かせるように話した。