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最終カーブ、再び転倒「難しいレース。正直もうやりたくない」高木菜那 北京五輪スピードスケート

 【中国・北京=北雅貴】高木菜那の2シーズンぶりのマススタートは苦さの残るレースとなった。先頭を滑っていた最終周の最後のカーブで転倒。4日前の団体追い抜き(チームパシュート)と同じようなところで再び、防護マットに激突した。「なんとも言えない。難しいレースだった」と話した。

 前回の平昌(ピョンチャン)五輪から採用された同種目。練習用のアップレーンも使用して大人数が一緒に滑走するため、レース中には接触、押したりするなどの小競り合いや転倒が多く、危険を伴う。初代女王はマークされ、なかなか思うようなポジション取りができない。他の選手の後ろについて体力を温存したかったが、なかなか内側に入れず、横並びの滑走で風の抵抗を受けた。16周のうち、4、8、12周目のそれぞれで、3位以内に与えられる中間ポイントの場面でも取れなかった。

 ある程度ポイントを取っていれば決勝進出は確実で、最終周に無理をして3位以内を狙う必要はなくなる。結果的に角度のきつい一番内側のレーンを攻める形となった。久しぶりの実戦に「今まではレース勘だったり、直感的に動けていたりしたが、きょうは難しかった。どんな展開でもいけるような体力がなければ駄目だった」と振り返った。

 直接の転倒の原因は接触ではなかったが、それまでの疲労に加え、他の選手とブレード(刃)が当たるエッジングが頻発。「ブレードなのか氷なのか分からないけど、(スケート靴が)持っていかれちゃった」と左足が想定外の動きとなりバランスを崩した。「マススタートは見ている方からすればすごく楽しいかなと思うが、正直もうやりたくないという気持ち。人とぶつかるのも嫌だし、掛け合いも怖いし」と本音を吐露した。ルールも過失を厳しく取るようになってきているが、実際は「押すのはなくなっているのかと思ったが、全く違った」。

 団体追い抜き(チームパシュート)とマススタートで金メダルを獲得した平昌。スピードスケートを続けるには大きなエネルギーが必要だった。陸上競技のハンマー投げで日本史上初の五輪金メダルを獲得した室伏広治さんから、トレーニングの指導を受けたのもその一つだ。「インナーマッスル(内側の筋肉)だったり、上半身と下半身の連動の仕方など、細かな筋肉を使いながらいかに効率良く体を使うかを学べた」。

 もともと成長に貪欲に取り組む真面目な性格。日本電産サンキョーで同期入社だった羽賀亮平(33)は「負けん気が強くて練習でも手を抜かない」と話す。ソチ後の2014年から2年間、所属チームの意向で強豪国のオランダで武者修行。5人で同居し、自炊しながら練習や大会に励んだ。ドイツの大会に出場する際は自動車の運転もした。

 平昌後に再び目標を定め、個人の能力を上げようと4年間強化し続け、着実に力を付けて迎えた北京。今五輪の女子1500メートルは最後の1周のバックストレートのクロッシングゾーン(交差区域)で不利を受けて結局8位に。その後の団体追い抜き決勝ではカナダと大接戦を演じた。最終周の最後のカーブで転倒。人目もはばからずに号泣した。一緒に滑った妹美帆(27)=日体大職-日体大、帯南商高出=、佐藤に加え、同学年でリザーブとして支えた押切美沙紀(29)=富士急-駒大苫小牧高、中札内中出=から優しく寄り添われた。「自分が転んじゃったせいで2番だと思っていたが、責める人は誰もいなかった。いつも通りに接してくれてありがたかった」と仲間に感謝。さらに日本から応援のメッセージも続々と寄せられた。「励ましの言葉があったからこそ、もう一回笑顔になれるようなレースがしたいと気持ちを切り替えられた」としみじみ振り返った。

 望んでいた結果ではなかったかだろう。それでも人の温かさを十分に感じた3度目の五輪が終わった。取材終了後に、日本語を話す中国人の女性ボランティアから、北京五輪マスコットのパンダ「ビンドゥンドゥン」のピンバッジが贈られるサプライズも。ボランティアに配られていた、中国で幸福を意味するひょうたん型のグッズに「かわいい」と笑顔になって取材エリアを後にした。小さな体を大きく使って全力でゴールを目指す姿は、国境を越えて見る人に感動を与えた。

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