“美人の湯”広めた麗しの後ろ姿 まちマイ音更編
大胆な女性の背中姿を写した以前のポスター（伊丸岡さん提供）
十勝川温泉かつてのポスター
「十勝川温泉の昔のポスターはスゴかったんだぞ」－。４０代の先輩社員が、少年時代の青い思い出を熱く語る。「美人の湯」で知られる十勝川温泉の現在のポスターには、うなじ姿が何とも美しい女性が描かれている。先輩によると、以前のバージョンも女性がモデルではあるが、構図が今とは比較にならないほど衝撃的だったという。札幌出身、２０代の記者にはその記憶がない。どんなポスターだったのか、モデルは誰なのか－。気になったので調べてみた。（高津祐也）
客足復活懸け大胆構図
訪ねたのは元音更町経済部商工観光課長で、ポスターの制作に携わった細海直一さん（７９）。女性のデザインは現在の一つ前のポスターから始まり、１９８６年に作られたものが初めてという。きっかけは昭和５０年代に大雨で十勝川が氾濫し、甚大な被害をもたらしたこと。減少した観光客を呼び戻そうと、女性をモデルにしたポスターの制作に取りかかった。
制作は札幌の業者に委託した。細海さんは完成した原版を確認し、「これならいける」と確信。早速、金子尚一町長（当時・故人）長に提案したが、女性の裸姿が描かれていたため却下された。何度もお願いに行くが、露出が大きいこともあり、町長はなかなか首を縦に振らなかった。「多くの人が（ポスターの）作成を訴えている。駄目なら、他の部署に移してほしい」。細海さんの覚悟の一言で、ようやく町長の許可が下りた。
ポスターを制作した当時を振り返る細海さん
テレカ３０００枚
ポスターが完成すると、次の“ターゲット”はテレホンカード。ＮＴＴ東日本帯広支店に依頼したが、あっさり断られた。「なぜだろう。芸術だと思わないのか」
「帯広が駄目なら東京だ」。ＮＴＴ本社にポスターを送ってみると、すぐに電話があり「ものすごくきれいな女性ですね」と好感触。しかし、期待はすぐに裏切られた。「ですが、厳しいかと…」。諦めかけたが、担当者は続けて「ちなみに何枚制作予定ですか」と聞いてきた。「３０００枚作りたい」。桁外れの発注枚数に、許可が下りた。
ポスターとテレホンカードは十勝川温泉の各温泉に配った。また、町役場職員の名刺にも同様のデザインを採用した。温泉を訪れた観光客を通じ、反響が広がり、全国各地から注文が殺到。こうして、十勝川温泉の「美人の湯」のイメージは全国的に浸透していった。
うなじ姿が美しい女性が描かれた現在のポスター
現在のデザイン０４年から
女性を撮影したカメラマンにも話を聞くことができた。現在は広告制作を手掛ける「ＣＡＳＴ」（札幌）代表の伊丸岡秀蔵さん（７１）は２０代の頃から全道各地で女性をテーマとした写真を撮影していた。
ポスターの撮影場所は他の場所でも可能だったが、「十勝川温泉の湯質のつやは他では再現できない」と町サイクリングターミナル（当時）で行った。ポスターは大胆に背中を露出したものと、横を向いて片方の胸が見えた２種類が完成した。「決してヌードではない。『美人の湯』を全国に知らしめたかった」。
その後、女性の正面を写したものも提案するが、許可を得られなかったため、十勝川温泉での仕事を降りた。「当時としてはあり得ないこと。よくやらせてくれた」と振り返る。
今見てもかなりきわどいポスターだ。女性の裸姿に批判の声はなかったのだろうか。現在のポスターは十勝川温泉の「モール温泉」が北海道遺産に登録された２００４年に作られた。その理由を町十勝川温泉観光協会の窪浩政事務局次長に聞くと、「一部から『女性の軽視だ』と指摘する声が上がった。（前のポスターは）時代の流れとともに徐々に受け入れられなくなったから」という。しかし、「美人の湯」を表現するために選んだのは、やはり女性だった。
ところでポスターのモデルとなった女性は誰なのか。伊丸岡さんは「当時１７歳のモデルで、現在は２児の母だと聞いた。それ以上のことは分からない」という。残念ながらこれ以上女性に関する情報はつかめなかった。だが、きっとそのつややかな美貌を今も保ち続けていることだろう－。
◆特集
・まちマイ音更編一覧
