「吟寿司 金ちゃんの店」9月末閉店 牛とろメニュー全国に
牛とろメニューで親しまれてきた「吟寿司 金ちゃんの店」(帯広市西1南10)が9月末で閉店、46年間続いた名物店ののれんを下ろす。店主の石井浩さん(69)は家族の思い出が詰まった店との別れを惜しみながらも、「すし一本で商売をさせてもらえて幸せだった」と、半世紀の職人人生を振り返る。
石井さんは空知管内上砂川町出身。中学卒業と同時にすしの道に入り、札幌すすきので修業を積んだ。東京で独立することも考えていたが、幕別町出身の妻久子さん(67)と出会ったことを機に十勝での開業を決意。1968年に現在地で開店した。店名の「金ちゃん」は、札幌時代の親方に付けてもらったあだ名だという。
夫婦二人三脚で切り盛りし、石井さんの腕と2人の気さくな人柄で店は繁盛したが、休みなく働いた無理がたたって久子さんが20年余り前に大病を患った。当時大学1年生だった長男謙至さん(42)が店に入り、以後、家族3人で店を守ってきた。
清水町産の牛とろに着目、後に看板メニューとなる「牛とろすし」の秘伝のみそダレは20年ほど前に謙至さんが考案した。半年間、客に無料で試食してもらいながら納得の味を作り上げた。牛とろの風味を引き立てる甘じょっぱいみその味が口コミで広がり、全国から客が訪れるようになった。評判は海外にも広がり、テレビの取材で台湾の女優リン・チー・リンが訪れたこともあった。
牛とろすしの人気にも引っ張られて経営は順調だったが、仕事一筋の生活は石井さんの体にも無理を強いた。3年前にはがんを患った。「ここでしか食べられない味を守りたい」という気持ちで続けてきたが、体力の衰えは顕著だった。
石井さんは「ママ(久子さん)とお兄ちゃん(謙至さん)の支えで続けてこられた。何よりもいいお客さんに恵まれたことが一番の幸せ」と感謝。「あとは9月末までの残された時間、一生懸命おいしいすしを握っていくだけ」と晴れやかな笑顔を見せる。
謙至さんは、「吟寿司は息子が継ぐものだ」という客の期待を感じていたため、閉店を決めるまでには迷いがあったという。ただ、「自分が店を続ければきっと両親が神経を使う。店のことは何も考えずに、のんびりしてもらいたい」という思いが勝った。一区切りを付け「2人にはゆっくり命の洗濯をしてもらいたい。その先のことはおいおい考えていく」と謙至さんは話している。(丹羽恭太)