改良スピードup! DNAで黒毛和牛の能力予測
畜産試験場 家畜研究部 肉牛グループ
1.試験のねらい
近年、各個体について少量のDNAから数万個に及ぶSNPs(多型のある一塩基配列)を一度に判別できるSNPチップが開発され、乳牛では、それにより得たデータを使って「ゲノム育種価」を算出し、期待育種価に代わる早期能力指標として活用しつつある。しかし、黒毛和種では、ゲノム育種価を算出するためのリファレンスデータの蓄積が進んでおらず、ゲノム育種価が期待育種価と比較してどの程度精度の高い指標であるかの検証も十分ではない。
そこで、種雄牛、若雄牛および繁殖雌牛においてゲノム育種価の精度を検証し、ゲノム育種価を活用した早期選抜法を示す。
2.試験の方法
1 )道内牛群のリファレンスデータを蓄積し、道内牛群におけるゲノム育種価の精度検証を行う。(リファレンス群:15,317頭、検証群:育種価正確度0.95以上の種雄牛99頭、育種価正確度0.90以上の若雄牛20頭および育種価正確度0.80以上の繁殖雌牛110頭)。
2 )道内黒毛和種において、種雄牛の場合と繁殖雌牛の場合に分けて、年当たり遺伝的改良量を試算し、ゲノム育種価を活用した早期選抜法を示す。
3.成果の概要
1 )道内牛群のリファレンスデータを1,621頭分蓄積し、北海道単独でゲノム育種価を算出する際に必要となる頭数規模のリファレンスデータを得た。
2 )種雄牛において、ゲノム育種価と推定育種価の間に、枝肉重量0.94、ロース芯面積0.89、バラ厚0.91、皮下脂肪厚0.80、歩留0.91、脂肪交雑0.90の高い相関が認められたことから、能力指標としてのゲノム育種価の有効性が示唆された。
3 )若雄牛において、ゲノム育種価と推定育種価の間に、枝肉重量0.79、ロース芯面積0.67、バラ厚0.74、皮下脂肪厚0.81、歩留0.72、脂肪交雑0.60と、中程度以上の相関が認められた(表1)。期待育種価と推定育種価の相関は、ロース芯面積0.68、バラ厚0.56、皮下脂肪厚0.73、歩留0.66であり、ゲノム育種価は、期待育種価よりも有効な早期能力指標になると考えられた(表1)。繁殖雌牛において、ゲノム育種価と推定育種価の間に、枝肉重量0.79、ロース芯面積0.60、バラ厚0.64、皮下脂肪厚0.43、歩留0.50、脂肪交雑0.62と、皮下脂肪厚を除く5形質において中程度以上の相関が認められた。
4 )ゲノム育種価により、種雄候補牛を生産する後継若雌牛を選抜し、さらに種雄候補牛を1次選抜する「ゲノム育種価を活用した早期選抜法」を提示した(図1)。本選抜法による年当たり遺伝的改良量は、現行に比べて繁殖雌牛では約2.6倍、種雄牛では約1.8倍、全体では約2.0倍と試算された(表2)。
4.留意点
1)道内和牛改良組合や種雄牛造成機関が黒毛和種の改良効果を高めるために活用する。
2 )「ゲノム育種価を活用した早期選抜法」は、既に道内種雄牛造成機関における種雄候補牛の選抜に一部活用されており、次年度から開始予定の「北海道和牛産地高度化促進事業(ゲノム育種価)」において改良効果を実証するとともに、道内への普及・定着を図る。
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道総研畜産試験場 家畜研究部 肉牛グループ 鹿島 聖志
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