アート探見「アール・ブリュット作品紹介 愛灯学園の冬澤千鶴さん」
クレヨンの層 浮き出る深み
塗り重ね1カ月以上「忍耐強く」
専門的な美術教育を受けていない人が、内側から湧き上がる衝動を表現した芸術、アール・ブリュット。障害を持つ人の療法という側面から、近年は作家の豊かな感性や大胆な発想、芸術性に注目が集まっている。(文・牧内奏、写真・金野和彦)
「Art Brut(アール・ブリュット)」は、フランスの画家ジャン・デュビュッフェが1945年に創り出した言葉。日本語で「生(き)の芸術」、英語では「アウトサイダー・アート」と訳されている。
2018年に帯広市にオープンした地域活動拠点popke(ポプケ)に入る「アートスペースぐるぐる」は、その創作場所の一つ。市内の障害者支援施設「愛灯学園」(西25南4)の敷地内から移転し、毎週30人くらいの利用者が通っている。
冬澤千鶴さん(42)は、画用紙などの平面にクレヨンで幾層も色づけし、ペンで削る方法で創作する。没頭しはじめたのは15年から。最初は塗るだけだったが、創作アドバイザーとして16年から支援員を勤める美術家の梅田マサノリさん(60)が「ひっかいたら面白いんじゃない?」と、つり金具のヒートンを置いたことがきっかけとなった。
アイドルグループの「モーニング娘。」が大好きという冬澤さんの創作現場は明るい。鼻歌を歌ったり、曲を聴きながらのりのりで手を動かす。「リップやビューラー、サングラスなどが好きなおしゃれさん。乙女の心を持っていて、色はピンクや赤が好み」と支援員の泉谷奈実子さん。実際に暖色系の作品が多く、本人もその色を「千鶴の赤」と呼ぶ。
四つ切りサイズの画用紙1枚にかける時間は1カ月以上。まずは1色で何度も塗り重ね、その後は気に入ったパターンの色を組み合わせていく。その色の層は厚く、スクラッチを加えることで浮かび上がる色合いの深さが目を引く。梅田さんは「見ればみるほど違った印象を受ける」と紹介。「忍耐強く同じ作品に対峙(たいじ)する姿勢はなかなかまねできない」と尊敬のまなざしを向けた。
冬澤さんの作品は、文化庁などが主催する「2020東京大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル」の全国巡回展や、道立帯広美術館で開かれた「北海道のアール・ブリュット~こころとこころの交差点~」(19年)などに出品してきた。ポプケ内にある「白樺通り美術館」では、常設で展示し、“千鶴さんワールド”を鑑賞することができる。
愛灯学園の佐藤力支援係員は「展示会は作品を通じて自分たちのことを知ってもらったり、生きている証しを伝えられる場でもある。社会に参加し、見てもらう喜びを感じられたら」と話していた。
<地域活動拠点popke(ポプケ)>
障害者や高齢者、児童らが自由に集まって交流する拠点として、2018年11月9日、市西21南2にオープン。社会福祉法人帯広福祉協会(田本憲吾理事長)が開設。1階に「アートスペースぐるぐる」とギャラリー「白樺通り美術館」。2階に「就労継続支援B型事業所あいとう」、「居宅介護事業所カント」が入る。午前10時~午後5時(火・木は午後3時まで)。
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アート探見では、不定期でアール・ブリュットの作品と作家を紹介します。