高橋啓さんの訳書、本屋大賞とツイッター文学賞ダブル受賞
帯広在住の翻訳家高橋啓さん(60)の訳書「HHhH-プラハ、1942年」(ローラン・ビネ著、東京創元社)が、2013年の第11回本屋大賞「翻訳小説部門」と第4回Twitter(ツイッター)文学賞「海外編」でともに第1位となり、ダブルで受賞した。高橋さんは「帯広に戻って5年、地元の周りの人たちが喜んでくれていることが何よりうれしい」と話している。
「HHhH」は、「金髪の野獣」「プラハの虐殺者」と呼ばれたナチスのラインハルト・ハイドリヒと、その暗殺計画を実行する2人の青年を描いている。歴史資料を丹念に調べた上で書き手も作品に登場するなど、画期的な手法の小説として高い評価を得ている。
高橋さんの訳書は昨年6月に出版され、1年足らずで11刷りまで版を重ねている。高橋さんはパスカル・キニャールをはじめ、フィリップ・クローデル、ニコラ・ブーヴィエら多くの作家の作品を翻訳しているが、「HHhH」については「予想外の反響。現代フランス文学ではまれなケース」と驚いている。
全国の書店員が選ぶ本屋大賞は、国内の小説は今回受賞した和田竜さんの「村上海賊の娘」のように大きな話題となる。翻訳小説部門は設けられてまだ3年のため比べると目立たないが、高橋さんは「授賞式(受賞作発表会、8日・東京)には帯広の書店員も出席していて、とても温かい賞」と感想を話す。
インターネットでの「投票」で決まるTwitter文学賞も、本屋大賞と同様に作家や評論家ではなく一般が選ぶ賞として読者の人気度が分かる。
高橋さんは2009年3月、仕事の拠点を東京から郷里の帯広に移した。昨年は翻訳家養成ワークショップの講師としてフランスに招かれ(5~6月)、キニャールについての国際シンポジウムで発表する(11月)など仕事の幅が広がり、今回の喜びが続いた。
「新規まき直しのつもりで帯広へ戻ったのだが、想定外のことがいろいろとあって戸惑っている。今回は帯広の同級生が祝ってくれるなど、地元の温かさを感じている」と感激している。(武内哲)
本屋大賞 2004年に始まり、全国の書店員の投票で受賞作を決める。書店員が「一番売りたい本」を選ぶため、受賞作は芥川賞や直木賞の受賞作よりも売り上げ部数が伸びる賞として知られる。翻訳小説部門は12年の第9回から設けられている。
Twitter文学賞 2010年に始まり、一般の読者がその年に最も面白かったと思う本をツイッターでツイート(投票)して選ぶ。国内編と海外編がある。