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動物園のあるまちプロジェクト

Vol.12

2022.12.9

〈3〉『十勝らしさ』生かした展示

強化ガラス越しに迫るライオンの迫力、空中にせり出したおり越しに、下から見上げるユキヒョウ-。来園者が動物の生活や行動を観察する「行動展示」は旭山動物園(旭川市)が先駆けで、「もうじゅう館」では動物たちをさまざまな角度から見ることができる。

中でも、アムールトラは2年前に三つ子を出産。絶滅危惧種のため、全国的に力を入れて繁殖に取り組まなければいけない動物の一つのため、出産は喜ばしいニュースだった。

一方、おびひろ動物園には「マオ」(雌、12歳)1頭のみ。繁殖できる年齢ではあるが、2016年に釧路から移動した雄が間もなく腎機能障害で死んでしまった後は、新たな縁談は実現していない。昔ながらのシンプルなおりの獣舎は築44年と古く、一つの方向からしか動物が見られないため、十勝毎日新聞社のアンケートでは「魅力が伝わりづらい」「旭山を参考にしてほしい」という来園者の声も多かった。

マオ。アムールトラは絶滅が危惧されており、アンケートでは縁談を望む声も多かった

予算増やしてでも

この他にもライオンなどの獣舎は老朽化や狭さが目立つ。野生では暖かい地域で暮らすライオンについては「冬はもっと暖かく過ごせる環境を」「本来は群れの動物が1頭で暮らすのはかわいそう」と、本来の暮らしとはかけ離れた獣舎や展示を心配する声も。未来の動物園の在り方を考えると、動物福祉の観点からも整備は避けられない課題だ。

アンケートでは老朽化した獣舎について「予算を増やして整備していくべき」という回答が83・3%と多数を占めた。帯広市教委の井上猛生涯学習部長は「時代とともにスタンダードが変わり、必要な整備をやっていかなければいけないと感じている」と話す。ただ、改築には億単位の費用が掛かるため、旭川や札幌と比べて規模が小さい帯広市は一歩を踏み出せていないのが現状だ。

老朽化した獣舎について

一方で、「現在の施設で飼育できる動物にシフトしていくべき」という答えも10・1%あった。帯広市が「魅力アップ」計画で掲げ、既に来年度の導入が決まっている「ばん馬」など地域の家畜の導入について聞いた質問では、「足を運ぶきっかけになる」と肯定する回答が55・3%と過半数を占めた。「帯広ならではの魅力になる」「導入しやすい地元の生き物を詳しく知りたい」などの声も。ここに予算をそれほど掛けずに、動物福祉と来場者の満足を共に満たしていくヒントがありそうだ。

家畜の導入について感じること

「触れ合い」に需要

アンケートでは「動物園を訪れる目的」を聞いたところ、やはり「動物を見る」が894人と、「遊具を利用する」287人、「憩いの場」176人を抑えて圧倒的に多かった。同時に「動物園に求めること」という質問では、「餌をあげるなど動物と触れ合う体験」が557人で、「動物種の充実」521人をわずかに上回った。

訪れた目的

動物園に求めること

モルモットやヤギに触れる同園の「ちびっこふぁーむ」も子どもや家族連れを中心に人気だ。ばん馬は旧ラクダ舎に予定し、「競馬場には足を向けづらいという人もいるかもしれない。帯広の文化・歴史への理解を深めてもらう意味合いも大きい」と井上部長は話す。ホースセラピーを狙った触れ合いの要素も取り入れていく予定だ。

帯広畜産大生らボランティアが子どもたちに触れ合い方を教えることも(2017年)

小さい子でも楽しめるちびっこふぁーむでの触れ合い体験(2018年)

ゾウやカバなど“動物園らしい”動物の新規導入は、厳しい地方財政では難しい。地域の動物を生かして自然に近い状態で展示し、動物が生き生きと暮らす様子を来園者が楽しむ。もちろん今いる動物たちの生活も大切で、持続可能な動物園を考えていくには並行して議論していく必要がある。(つづく、松田亜弓)

2023年に開園60周年を迎えるおびひろ動物園。市民らに愛される憩いの場は今どんな課題を抱え、どう変わろうとしているのか。関係者の取り組みを取材し、動物園ファンらの声を聞いた。
文/松田亜弓、映像/村瀬恵理子

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