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動物園のあるまちプロジェクト

Vol.12

2022.12.7

〈1〉キリン誕生 異例の改築

キリン舎改築に担当展示飼育係の片桐奈月さんの声

つぶらな瞳があどけなく、母親に甘える様子がかわいらしい—。おびひろ動物園(緑ケ丘2)で今年6月に生まれたアミメキリンの「ユメタ」。生後5カ月がたち、体長は母親ユルリ(5歳)の約半分の2メートルを超えるまでに成長した。臆病ながらも好奇心旺盛な男の子だが、生まれてからの生活のほとんどを、獣舎の建物内で満足な運動もできずに過ごしている。

本来ならばキリンが室内で過ごすのは夕方から朝までの夜間のみで、昼は外の放飼場で伸び伸びと走り回る姿が見られるはず。だが、向かいで暮らす父親メープル(8歳)との相性が合わず、3頭で一緒に外に出ることが困難なのだ。放飼場には母子と父を隔てる柵がないため、このままではユメタが外に出ることはかなわない。

すくすく成長し、愛らしい様子のユメタ

飼育員が発案

獣舎内の環境も十分とは言えない。1971年築の建物は壁から水が染み、天井には穴が開く。母子が過ごす広さ約21平方メートルの室内はキリンの首の可動域ぎりぎり。えさ箱はまだ小さいユメタには頭ほどの位置だが、母親には尻ほどの高さで、「木の上にある餌を食べる野生の暮らしとはほど遠い」と担当展示飼育係の片桐奈月さんは悩む。

手前のえさ箱は展示飼育係の手作り。首を曲げて食べるしかないため、キリンは窮屈な体勢になる

さらに子育てが終わる2年後には母子の室内獣舎を別にする必要があるが、同園には母子と父用の2室しかない。新たなキリン舎増築と、放飼場の柵の整備が喫緊の課題だ-。片桐さんは今まで訪れた全国のキリン舎を思い起こし、昨年秋から自宅で設計図を書き、上司に提出。問題の切迫性に加え、片桐さんの設計図も後押しし、帯広市は9月補正予算に獣舎改築の建築設計委託費を盛り込んだ。

計画では、現在の倍以上の広さの3室と屋内展示場が設けられ、雨天時や冬季も来園者が見られるようになる。昇降式のえさ箱、飲み水はバルブから組み入れられるように-など工夫を凝らし、「キリンたちが過ごしやすい獣舎に」と片桐さんは願う。

獣舎改築に先立ち、急務だった放飼場に仕切り柵を設置する工事も始まった。12月に完成予定で、窮屈な生活をしていたキリンたちが3頭同時に外で過ごせるようになる日も遠くない。

片桐さんら担当展示飼育係は円山や旭山、秋田大森山の動物園らを視察し、キリンの新獣舎をよりよいものにしようと奮闘中。「他園から学ぶことはたくさんある」と話す片桐さん

15年ぶり大型投資

動物の快適な環境づくりに動き出したキリン舎改築だが、市や動物園の元々の計画にはなく、ユメタの誕生に伴う例外的な動きだ。獣舎新築となると、2008年の新サル舎(総事業費約2億7000万円)以来、約15年ぶりの大規模投資となる。

ユメタと母親のユルリ(おびひろ動物園提供)

1963年開園のおびひろ動物園は現在、大半の施設が築40年以上経過し老朽化が進む。ライオン舎は55年、トラ舎は44年が経過。スペースが狭く、コンクリートに囲まれる居住環境には、動物愛護団体の批判や来園者から改善を求める声も届く。この10年で園を代表する人気者だったゾウやカバが死に、今後の活用予定がない空き獣舎も目立つ。だが厳しい地方財政の中、新たな投資は難しい状況だ。

動物が幸せに過ごせ、来園者の憩いの場になる新たな動物園の姿とは-。おびひろ動物園は2年前から10カ年の「魅力アップ」計画に着手し、ばん馬など地元の動物を軸にした新たな整備計画を検討している。動物園のあるまちを未来に残していくために今、何が必要なのか。市と園関係者だけでなく、市民や来場者みんなで考える大切な時期を迎えている。(つづく、松田亜弓)

2023年に開園60周年を迎えるおびひろ動物園。市民らに愛される憩いの場は今どんな課題を抱え、どう変わろうとしているのか。関係者の取り組みを取材し、動物園ファンらの声を聞いた。
文/松田亜弓、映像/村瀬恵理子

道内3動物園 キリン舎の環境

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