2022.12.8
柚原和敏園長 魅力ある動物園のために
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おびひろ動物園の正門を入って5分ほど歩くと、2年前に死んだアジアゾウ「ナナ」(当時59歳)の獣舎がある。手入れされることがなくなった獣舎は手すりのさびやペンキの剥げが進み、いなくなったという寂しさに拍車を掛ける。見渡せば、カバ舎やラクダ舎も空き獣舎になってから5年以上がたった。
「ナナの死は来園者にも飼育員にも喪失感を感じさせた。シンボル的な存在を失った」。柚原和敏園長は重く受け止める。半世紀以上を帯広で暮らしたナナは、2018年に円山動物園(札幌)にゾウが来るまでは道内唯一で、かつてはナナに会うために全道から多くの来園者が訪れた。
こうした現状に危機感を抱き、帯広市は20年から10カ年の「魅力アップ計画」に着手。寒冷地や地域に住む動物に方針を転換し、動物福祉やコスト面を重視する考えだ。一方で長年園を支えてきた市民やファンは現状をどのように考えているのか。十勝毎日新聞社はインターネット上でアンケートを実施し、声を聞いた。
「ゾウは復活してほしい」「誰もが知っている動物だけでいい」−。アンケートでは、今はいなくなったゾウやカバなどの世界の希少な動物について、「導入してほしい」が48・9%と約半数に上った。長年日本の動物園はゾウなどの大型の希少な種が看板となることが多く、おびひろに現在いる種の「魅力に感じる動物」ランキングも堂々の1位はホッキョクグマだった。
現在、ゾウ舎は資材置き場となり、カバ舎では冬期間のみハクチョウが過ごす。新たに導入することは難しいのだろうか。「現在、ゾウの導入は繁殖が絶対条件。築50年以上の獣舎では受け入れられない」と柚原園長。18年に円山が4頭を迎え入れたが、繁殖も視野に入れた獣舎は屋内だけで延べ床面積3400平方メートル、建設費約30億円。行政規模が小さい帯広市には困難な数字だ。
一方、カバは国内他園からの受け入れはできるものの、断っている状況だ。課題はゾウと共に「動物福祉」の観点だ。人気者だったダイ(当時47歳)が44年間暮らしたプールはおとなのカバが1頭入ったらいっぱいの大きさで、カバ本来のダイナミックな動きをとるだけのスペースはない。近年の動物園は種の本来の生態を生かした展示が中心で、全国の動物園が所属する日本動物園水族館協会や世界の適正とされる施設基準でも、福祉の観点から最低限の広さが求められる。
おびひろが開園した昭和の動物園はゾウやライオンなど“動物園らしい動物”が主な主役で、「娯楽施設」の役割が大きかった。
時代は移り変わり、現代は(1)種の保存(2)教育・環境教育(3)調査・研究(4)レクリエーション-の四つの軸が世界的な潮流に。おびひろの「魅力アップ計画」もこの流れをくみ、動物に無理をかけない寒冷地に住む種や、地域性のある動物への転換を決めた。寒冷地の種なら冬の屋外でも生息地に近い状況で展示でき、暖房などのコストも節約できる狙いもある。
一方、アンケートでは希少動物の質問に対して「現在いる動物で十分」という回答も40・8%あり、「現在いる動物が幸せに暮らせるようにしてほしい」という声も多々見られた。ホッキョクグマも含め、今いる動物たちの福祉をどう実現していくのか。そこに老朽化という大きな課題が立ちはだかっている。(つづく、松田亜弓)
〈アンケート〉
十勝毎日新聞社が11月17日から23日まで、オンラインで実施した。全国から1151件(うち十勝在住者は64・2%)の回答が集まった。
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2023年に開園60周年を迎えるおびひろ動物園。市民らに愛される憩いの場は今どんな課題を抱え、どう変わろうとしているのか。関係者の取り組みを取材し、動物園ファンらの声を聞いた。
文/松田亜弓、映像/村瀬恵理子
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