おびひろ動物園(柚原和敏園長)のホッキョクグマ「アイラ」(雌、7歳)。
2012年に円山動物園(札幌)から訪れ、愛らしい姿とおてんばな性格が来園者の人気を集める。
来園当初は1歳と幼かったアイラも今では立派に成長し、子どもを産める年齢となったが、
“お婿さん”を見つけるのは難しく、そこには動物園が抱える繁殖の課題がある。
道内で飼育されるホッキョクグマの親子らの姿を通して、命をつなぐ動物園の役割を考えた。
文/松田 亜弓、映像/村瀬 恵理子
資料提供:日本動物園水族館協会〈JAZA〉(2018年9月14日現在)
野生のホッキョクグマは北極圏に暮らし、推定約2万6000頭が生息。一時は狩猟などで絶滅も心配され、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト「危急種」に指定される。気候変動により海氷が溶けて餌のアザラシが捕れなくなり、近年はやせ細った姿がたびたび撮影されている。
国内の動物園では現在38頭(雄13頭、雌25頭)が飼育されている。1995年の67頭をピークに、その後は徐々に減少。飼育下での繁殖は難しく、野生動物保護などから海外からの導入も難しい。「将来的には姿を消してしまう」という推計もある。
ホッキョクグマの生態 | |||
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体長 | 210~340cm | 体重 | 400~680kg |
分布 | 北極圏 | 主食 | アザラシ、セイウチ |
こうした現状の中、8頭の子どもを育てた“スーパー母さん”がいる。円山動物園の「ララ」(雌、23歳)。アイラのお母さんだ。
8頭は全て同園の「デナリ」(雄、25歳)との子ども。ララとデナリの家族10頭で国内飼育頭数の4分の1を占める大家族で、成長した子どもたちは全国各地の園で暮らしている。
ララは1996年に別府ラクテンチ(大分県)から円山に来た。2003年に「ツヨシ」(雌)、05年「ピリカ」(雌)、08年双子の「イコロ」「キロル」(雄)、10年「アイラ」、12年双子の「ポロロ」「マルル」、14年「リラ」(雌)を出産。帯広はアイラの他、ピリカ、イコロ、キロルの3頭がいたことがある。
帯広は次の繁殖行動が円滑に進められるための「預託先」の一つ。柚原和敏園長は「円山で生まれなければ、帯広にホッキョクグマはいなかったかもしれない」と話す。子ども4頭の来園時は、いずれも管内外から来園者が詰めかける人気ぶりだったと振り返る。
大きなプールで、リラがお母さんのララを遊びに誘い、2頭が水中でじゃれ合ったり、木の棒をとりあったり。今年3月に円山にオープンしたホッキョクグマ館では、母子が共に暮らす姿を間近に眺められる。
8頭を育てた「ベテランママ」ララの子育てぶりも観察できる。ララは娘が小さいときは堀に近付くなど危ない状況と感じたら呼び戻すことも。3歳になったリラは母とさほど変わらない体格に成長したが、「リラの様子をいつも気に懸けている。休息している時も目は離さない」と12年から飼育担当を務める清水道晃さんは話す。
札幌市円山動物園 動物専門員 清水道晃さん
子どもたちに時折開催されていた「水泳教室」では、初めてのプールにおじけづく子どもを後ろから突き落とすなど、「優しく見守ってはいるけど、クマとして生きるのに必要なことを教えるのは厳しい」。
愛情と厳しさを使い分け、おてんばなマルル、賢いポロロ、自由なリラなど、個性豊かな8頭を立派に育てあげたララ。しかし、初めから出産、育児がうまくいったわけではなかった。