十勝毎日新聞 電子版

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動物園のあるまちプロジェクト

Vol.11

2021.7.24

〈4〉未来見据えて おびひろの選ぶ道

命の管理~未来へつなぐ~ 第4回

動物の高齢化や施設の老朽化、生まれても行き先がないなどの課題から飼育種を減らさざるを得ないおびひろ動物園。ホッキョクグマやアムールトラといった人気動物も移動し、身近に見られなくなる日が来るかもしれない。動物園の「種の保存」の役割が増し、全国の園が協力して動物を飼育管理する中、“未来予想図”をどう描くのか。

歴史を振り返ると、全国各地で動物園が誕生した戦後当時は「産めよ増やせよ」の時代だった。「親きょうだいで繁殖させたり、高齢動物だからと配慮することはなかった」と同園の柚原和敏園長は話す。

動物福祉や倫理観が意識され始めたのは、1980年代から。日本動物園水族館協会(JAZA)がリーダーシップを取り、血統管理やペアリングを始めた。主催する「種の保存」会議は2年に1度開催され、全国の動物園・水族館らが現状や課題を報告する。

動物の寿命や血統を管理し、園館同士で協力しながら次世代へつなげていくJAZA。見据えるのは「50年後の未来」だ。

おびひろ動物園を所管する帯広市教委は昨年、2020年からの10年間の方針をまとめた。飼育する動物種については「十勝おびひろの特色を生かした展示」を柱とし、帯広の気候に順応できる寒冷地に生息する動物、十勝の産業を支える家畜動物を挙げた。

現在いる約65種の飼育も検討していく。「冬の間、寒さから外に出せない動物は厳しい。ライオンも本当は寒さには弱いし、キリンも雪で足を滑らせる危険性がある」と柚原園長。近年まで飼育し人気者だったカバやゾウは難しい。

さらに繁殖を考えると獣舎の多くが適していない。ただ、出産・育児は難しくとも「発情時期だけ他園と貸し借りしたり、ペアリング相手が見つかるまで預かることはできる」。例えば、現在1頭で飼育しているホッキョクグマ「アイラ」やアムールトラ「マオ」などがその状況にある。いずれも絶滅が危惧されている希少な動物だ。

2012年に訪れたホッキョクグマのアイラ

多摩動物公園(東京)から訪れたアムールトラのマオ(2013年)

母親のプヨに抱かれるチンパンジーのピナ(2017年)

課題が多い中、同園で繁殖を進めることが可能で、前向きに考えることができる動物もいる。中でも、道内で唯一飼育するアメリカバイソンは寒さに強く、国内では複数のサファリパークが飼育していて移動先もある。5月に来園したペアはまだ若く、数年後に赤ちゃん誕生が期待される。その上で「子どもが産まれたら雌、雄を分ける必要がある。血統管理のため、長い目で見ればサファリなどと協力して移動させていくことも考えている」とする。

今年、岩手サファリパークから訪れたアメリカバイソン。手前が「サクラコ」、奥が「グラン」

ヒツジやヤギ、エゾリス、エゾタヌキなど“十勝らしい”動物も同様だ。ただ、人気動物がさらに減少した時、来園者に受け入れられるのか。柚原園長は「方針を浸透させていくしかない」としつつ、「来園者が何を求めているかを聞かないと、ニーズとかけ離れてしまう」と難しさを感じている。

道内の動物園は互いに協力しつつ、それぞれに特色作りを模索する。円山(札幌市)はホッキョクグマやゾウなど希少動物の繁殖に力を入れる。旭山(旭川市)は動物本来の行動観察を工夫し、全国的に人気を得る。釧路はタンチョウやフクロウなど地域の希少動物の保護に尽力する。

「差別化を図る上でも、その中間を狙いたい。3園のカバーしきれない部分を担い、種の保存にも貢献したい」と柚原園長。おびひろならではの未来に向けて、新たな一歩を踏み出す時期を迎えている。

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