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動物園のあるまちプロジェクト

第1回

娯楽と保存のはざま 老いる人気者たち

 道内では札幌の円山動物園(1951年開園)に次ぐ歴史があるおびひろ動物園。63年、動物園設立を求める市民の声を受けて誕生した。子どもに人気のゾウ「ナナ」は現在、道内で見られる唯一のゾウだ。身近に世界の動物に出合える貴重な場所に、昨年度は約17万人が訪れ、帯広市民憩いの場となっている。

 その市民に愛される動物園に今、危機が迫る。1つが動物の高齢化。平均寿命60年というゾウだが、「ナナ」は推定56歳で国内2番目の高齢になった。コンドルの「ジェーン」「ジャック」(ともに推定60歳)は国内最高齢だ。

 長年親しまれた人気者の死も相次ぐ。昨年1年でアメリカバイソン「レベッカ」(雌)、カバ「ダイ」(雄)、ラマ「雪丸」(雄)が老齢による機能障害などで相次ぎ死んだ。現在の飼育動物は67種337点(3月末月現在)と、10年前の76種413点と比べると個体数は約2割減少している。

おびひろ動物園のカバ舎

 施設の老朽化も課題だ。高度成長期の50、60年代に作られた全国の多くの動物園の一つ。開園当初からの獣舎も多く、ゾウ舎は63年、ライオン舎は67年、キリン舎は71年築で、約半世紀が経過。全70施設のうち約7割の48施設は昭和の建設だ。大規模な施設整備は2008年の新サル舎が最後だ。

 新たな動物の導入には、動物福祉や繁殖を前提とした、一定の面積などの基準を満たした施設が求められる。大幅な改修が不可欠だが、新たな施設整備の見通しは立っていない。

 さびついた狭い獣舎、高齢化した動物、まばらな来園者―。帯広に限らず、国内の多くの動物園が窮地に立たされている。

 動物園問題に詳しい東京大学大学院の木下直之教授(文化資源学)は「直面している問題は、大きく3つ挙げられる」と指摘する。

東京大学大学院の木下直之教授

 1つは飼育する動物種の減少。50、60年代は「海外からかなり自由に手に入れることができた」が、ワシントン条約(75年発効)により、絶滅が危惧されるゾウやゴリラなど希少動物は入手困難になった。

 その典型がゾウだ。多くの動物園がゾウを目玉に来園客を呼び込んだが、開園から半世紀を経て死に絶えていった。「ゾウはもともと集団で子育てをするのに、1、2頭の飼育では繁殖は難しかった。どの園も図鑑のような動物園を意識し、増やしていく発想がなかった」と指摘する。

 2つ目の要因は、運営する自治体の財政難。日本の動物園は自治体営がほとんどで、大半は赤字だ。入園者数減少と収入不足という経営上の問題を抱え、動物購入や施設建て替えは難しい状況に陥っている。

 3つ目は、動物園の存在意義の変化。開園当時求めらた「娯楽施設」の役割は、交通網の発達に伴うレジャーの選択肢多様化で揺らいでいる。木下教授はその背景を「動物園の理念が議論されず、社会的に共有されていない」と見る。

 レクリエーションの場として、世界各地の動物を集め、展示することが求められてきた動物園。しかし近年は世界的に環境教育、種の保存、調査研究の役割が重視され、レクリエーションにも命の大切さを感じ取るという目的が加わった。

 木下教授は「動物園は法的にあいまいな存在」と問題提起する。都市公園法で公園施設と明記され、多くは公園を管理する部署が管轄する。「種の保存や教育の役割を果たすには、別の法律の後押しも重要」と法律上の甘さを語る。

 取り巻く環境が変わる中、時代の変化に追いついていけない動物園。未来に向けてどうあるべきなのか―。各地で苦境を脱しようと模索が続く。動物の研究や福祉を追究し、“魅せる”展示で息を吹き返した園もある。

 木下教授は将来を見据えた展望の重要性を語る。「厳しい財政状況においても、市民のために運営を続ける『意義』を見いだすことが大切だ」。

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