十勝毎日新聞 電子版

Tokachi Mainichi News Web

動物園のあるまちプロジェクト

特別編
「ナナと春子〜市民とゾウの物語〜」

 おびひろ動物園、国内動物園のゾウ飼育を考えるトークセッションが、帯広市図書館で開かれた。十勝毎日新聞社「動物園のあるまちプロジェクト」によるドキュメンタリー映画「天王寺おばあちゃんゾウ春子 最後の夏」の上映会と併せて4月21日に行われ、おびひろ動物園の柚原和敏園長と天王寺動物園(大阪市)ゾウ担当飼育係の西村慶太さんが日本のゾウが置かれている現状などを話した。

西村さん「人の思いで元気に」

-国内のアジアゾウは1987年は45園で83頭いたが、この30年の間に32園78頭に減少した。ゾウがいない動物園が年々増えている。

 柚原 以前は海外からゾウを購入できたが、ワシントン条約(73年)ができ、研究・教育などの目的でなければ導入は難しくなった。国交レベルの取引が求められ、動物福祉や繁殖の面からも複数飼育でなければ受け入れは難しく、ハードルは高い。

 西村 国内の繁殖は、動物園間で貸し借りする「ブリーディングローン」が行われている。ゾウは群れで育児を覚えるが、例えば王子動物園(神戸市)のズゼ(雌)は出産はできるが、授乳は見た経験がないからできない。ずっと一緒にいると姉弟のような関係になってしまうこともあり、相性面でもゾウを移動させる動きが盛んになってくる。

-天王寺では飼育係がじかにゾウと触れ合う「直接飼育」という飼育法を採用している。

 西村 直接飼育をする人間は学校の先生やヘルパーのような存在。上下関係や信頼関係が大切で、目先のトレーニングではなく、話を聞くなどの関係性が必要になる。ただ、今後は飼育法はゾウ次第で変えるべきだ。例えば雄のゾウであれば、自信を持たせた方が繁殖につながると思うし、そうなると柵越しに世話をする「準間接飼育」。来るゾウによって変えていかないといけない。

柚原園長「他園と情報共有」

-おびひろのナナも57歳。アジアゾウでは国内2番目の高齢になった。

 柚原 以前と比べ体の彫りが深くなり、食が細くなっている。残り1本の歯も無くなると、流動食を考えなければ。他の動物園に移し、仲間と暮らした方がよいとの声も頂く。ただ、ナナにとって環境の変化はストレスにつながるため、できない。

-来園者に、ゾウを通じて感じ取ってほしいことは。

 西村 ゾウは、人の思いがあるからこそ元気でいてくれる。誰からも求められなくなると、すぐ死ぬし、そういう例も見てきている。ナナに関しては、今まで通りにしてあげるのが一番幸せだと思う。春子が死んだときは献花台が多くの花で埋まり、知らないところで、たくさんの人の支えになっていたのだと思い知らされた。

 柚原 来園者に本当に支えられている。他園と情報共有しながら、できることをナナにして、長生きしてほしい。



十勝毎日新聞電子版HOME