番外編
札幌市円山動物園 小菅正夫参与インタビュー
動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」で知られる旭山動物園(旭川市)。閉園の危機から国内屈指の人気を獲得し、北海道の一大観光資源になった。前園長の小菅正夫さん(68)=円山動物園(札幌)参与=に、当時のエピソードや道内の動物園の未来像を聞いた。
−小菅さんが名付けた「行動展示」の着想は
1983年をピークに入園者が減り、閉園がささやかれた時期でも職員全体が「何かやろう」という機運があった。「旭山らしさ」とは何かを検証したら、特色がない。当時はどこもそうだが、上野動物園の小型版でしかなかった。
最初にやったのは、動物の魅力をお客さんにどう伝えるか。ガイドも百科事典にある知識ではだめ。ある飼育員が「野生のアカハナグマが背が届かない高さにある果物を取った」というエピソードを知り、この特性を生かしたガイドを考えた。壁をよじ登り、針金でロープを手繰り寄せ、見事にエサを手に入れる姿を見せたところ、お客さんが夢中になって見てくれた。ただの知識ではなく、発信手段の一つが動物の行動を見せるということだった。
昔は動物を展示するだけが動物園だったが、これからの時代は何を伝えるかが大切。今は最初から行動展示ありきのところがあるが、旭山のこだわりは「動物の美しさ、すばらしさ、尊さを感じ、共に生きていく」というもので、これがしっかりしているから他園との差別化ができた。
−動物園の魅力を引き出すために必要なことは
旭山の「行動展示」を取り入れても二番煎じにしかならない。地域の特性を生かした差別化が必要だ。
道内の4園を考えると、円山動物園は歴史も長いし規模も大きいから総合デパート。旭山は行動展示、釧路は天然記念物に特化。帯広は何か。大平原の真ん中にあるから、「草原」をテーマに動物を集めてみたり。そうなれば道全体から来園者が訪れる。
動物園をみれば市の民度が分かると言われる。今後、外国人観光客が増加する中、胸を張ってこれが動物園です、というものをつくらないといけない。
市長の決断も重要だ。旭山は動物園は要らないと言われ、再生プランの予算も認められなかった。新市長になって再整備に向けた予算がつき、徐々に変えていくことができた。
動物園は「あった方がいい」が、なくてはならないかというと議論がある施設。市民愛され、必要とされる動物園であり続けなければ存在は危うい。旭山は市や市民に動物園の目指すものをずっと発信してきた。園は常々、動物園の役割を発信し、説明していかなければいけない。
−2018年秋に、円山動物園にミャンマーから4頭のゾウが導入される
円山は「ゾウの暮らし」を展示する。だから雌3頭に雄が1頭。暮らすからには苦痛を与えてはいけない。アメリカ動物園協会の基準をクリアし、冬の間は室内で飼えるよう2000平方メートルの寝室を作った。
将来的に子ゾウが産まれたら、帯広に行く可能性もある。北海道の4園が全部ミャンマーのゾウで埋まれば。札幌はそこまで考えてゾウを入れる。札幌を中心にずっとミャンマーと協力していけば、世界的にも注目される動物園群になる。
これまでは外国から動物をもらってそれで完結してしまっていた。将来の動物園のあり方は生息国との関係をずっと維持しながら文化的な交流もずっと続けたい。(ミャンマーと)子どもたちを派遣したり、来てもらったり。動物園は世界をつなぐ。その役割は計り知れない。
〈プロフィール〉
1948年、札幌市生まれ。北大獣医学部卒。73年に旭山動物園に獣医師として入園し、95年に園長に就任。2009年に定年退職。現在は札幌市環境局参与として、円山動物園の助言役を務める。