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動物園のあるまちプロジェクト

Vol.7

そのとき動物園は〜災害に備える〜

 6日未明に発生した胆振東部地震では札幌市などで大きな揺れを記録し、帯広を含む道内全域が大停電に見舞われた。全電源喪失という想定外の災害時、たくさんの命を扱う動物園はどう対応したのか―。おびひろ、円山(札幌)、旭山(旭川)釧路の道内4園の当時の状況を聞き、今後起きうる災害に備えた動物園の課題を聞いた。



北海道胆振東部地震

 2018年9月6日午前3時7分に北海道胆振地方中東部を震源として発生。地震の規模はM(マグニチュード)6.7、震源の深さは約37キロと深く、胆振管内厚真町で最大震度7を記録した。震度7の観測は道内初めて。その他、同管内の安平町、むかわ町で震度6強、札幌市東区、千歳市、日高管内日高町、平取町で震度6弱を記録するなど、広範囲で強い揺れを観測した。
 死者は最も揺れが強く、広範囲で土砂崩れが発生した厚真町で36人が亡くなるなど、札幌市1人、苫小牧市2人など計41人が確認されている。負傷者681人、住宅の全壊139棟、半壊242棟、一部破損1773棟(9月18日現在、消防庁調べ)。
 厚真町の苫東厚真火力発電所に被害が出るなど道内の電力需給バランスが崩れたことで、地震直後から道内全域約295万戸で大規模停電が発生。電力会社の供給管内全域で電力が止まる「ブラックアウト」が起きたのは国内初。十勝でもほぼ2日間電気が止まり、社会生活や経済活動、酪農を中心とした農業など幅広く影響が出た。
 道内では一時最大6万戸が断水し、9月25日現在も厚真町の一部などで断水が続いている。

帯広市おびひろ動物園

早期に開園したおびひろ動物園

 ゾウのナナがゆったりと歩き、アザラシの親子がかわいらしい泳ぎを見せていた-。地震発生から丸1日、帯広市内のほとんどの地域で停電が続いていた7日午前9時、おびひろ動物園(柚原和敏園長)ではいつも通りの開園の風景が広がっていた。市が管理する他の公共施設のほとんどが休館・休園する中、この日同園にはいつもよりは少なめながら80人余りが入園し、普段と変わらない動物たちの姿を楽しんだ。

 同園は7日深夜に通電し、園内の安全が確認し、翌日の通常開園を決めた。来場したのはほとんどが停電で行くところがなかった観光客だった。「遊具は動かせなかったものの、少しでも楽しんでもらえたら良かった」。柚原園長は非常時ながら人々に憩いを与える動物園の役割を果たした1日を振り返る。

地震の影響で信号機が停電し、暗闇の交差点を慎重に走行する自家用車。停電は長引き、十勝管内は8日午前1時に完全復旧した(6日午前3時半ごろ、帯広市内)

おびひろの被害状況

 地震発生から約30分が経過した6日午前3時半すぎ、同園では柚原園長ら職員3人が集まった。真っ暗な園内を懐中電灯を持って回り、獣舎の破損や動物が逃げていないかなどを点検。明け方にも再度見回り、被害がないことを確認した。

 安心したのもつかの間、いつまで続くか分からない停電が職員を悩ませた。電気がないことで飼育自体や、体調に影響が出る動物はいないが、唯一、その餌を保存する冷凍庫の温度維持が課題となった。

おびひろ動物園内にある分電盤。電気が供給されなくなると、獣舎のみならず遊具や売店、休憩所なども通常営業はできない

 魚や肉を中心に、多いときでは1カ月分入っているほどの冷凍庫は家庭用発電機では対応できない。業務用のレンタルも既に無く、幸い市内の商社で手に入った40キロのドライアイスで難を逃れた。餌は傷むことなく、柚原園長は「うちは獣舎も古く、電気がつかなくても妨げにならない施設だったことが今回は良かった」と胸をなで下ろす。

動物たちの餌が入っている大型の冷凍庫。ドライアイスで対応できたが、交通網のまひなどが起きれば業者から餌を納入できない可能性もあった

札幌市円山動物園

円山の被害状況

 円山は暖房と加湿が必要なハダカデバネズミ、水温を低く維持するニホンザリガニ、酸素を水に送るアジアアロワナの3種が課題に。ネズミ、ザリガニは園で使用する発電機を使用し、アロワナも診療用の酸素ボンベを使い対応。通常時も気温30度を超えると室内に収容しているレッサーパンダの冷房も懸念されたが、6日の気温はさほど上がらなかった。

今年新たにオープンしたホッキョクグマ館。停電では電柵の通電も止まったため、動物を公開することができなかった。

旭川市旭山動物園

旭山の被害状況

 旭山も冷凍庫や水槽の対応に追われた。園で所有する発電機でカバ、ペンギン、ホッキョクグマに対処し、停電の長期化に備えて燃料確保などに奔走。市内のガソリンスタンドも給油制限がかかるなどの事態になっていたため、この先に備えて燃料の緊急確保をどうするかが職員間で課題に挙げられた。

9月の中旬の旭山動物園。ホッキョクグマの「もぐもぐタイム」では、多くの人々が夢中で見入った。ただ、例年のこの時期と比べると入園者数は少なめ。観光客のキャンセルも相次ぎ、動物園に限らず客足は減っている

釧路市釧路市動物園

釧路の被害状況

 釧路は唯一、自家発電を有していたものの、開園当初からある発電施設は老朽化しており、オーバーヒートさせないよう常に職員が目をかけた。夜間は冷凍庫の温度が上がってきたら電源を付けるなどしてやりくりし、水のくみ上げも電気で行っているため獣舎の掃除なども発電施設の状況を見ながらとなった。「今回も3時間でオーバーヒートし、冷却しながらの使用。財政的なものもあるが、少しでも改善したいとは思う」と松本文雄主幹と対策の必要性を挙げる。

釧路市動物園の発電設備。道内では唯一の設備だが、老朽化で持続的な発電は難しかった

熊本地震では

熊本市動植物園

 ユキヒョウの運動場だった獣舎は天井に隙間ができ、液状化した園路は歩くのも一苦労―。2016年4月、最大震度7を記録した熊本地震に襲われた熊本市動植物園(熊本市東区)は、獣舎や施設が大きな被害を受けた。

 動物が逃げ出さないよう、日本動物園水族館協会(JAZA)の調整で、ライオンなど猛獣5頭は同じ九州の4園・館に引き取られた。同園は2017年2月から土日祝日のみ一部エリアを公開しているが、今も全面開園には至っていない。

2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本市動植物園。園内は至る所に亀裂が広がり、来園者の安全が確保できないことなどから現在も全面開園はできていない

課題と対策

課題1 耐震化~獣舎の老朽化

 おびひろなどで課題となるのが獣舎の老朽化。開園当初から更新されていないものも多く、2003年の十勝沖地震など過去の大地震でも被害が出たことはないが、建設時の基準は特に設けられていない。

 脱走しないようもともと頑丈に作られてはいるものの、十勝でも想定される直下型の大地震で被害が出ない保証はない。新たな獣舎建設を進める円山動物園は、類人猿舎を除いて耐震基準を満たしており、類人猿舎についても改築に向けて実施設計まで完了しているという。

課題2 冬期間の備え

 冬の寒さが厳しい道内では、冬期間の災害への備えは欠かせない。おびひろ動物園の柚原園長は「今回のような長い停電の場合、暖房が止まると動物の命に関わる」と懸念する。同園では冬期間3分の2の動物に暖房を使っており、灯油であれば1週間程は持続可能という。ただ、停電になれば暖房が止まってしまうため、「コンクリートの冷えが動物に伝わらないよう、乾草や麦稈を入れて対処するしかない。電気の要らないストーブはいくつかあるが、大型動物には対応できないだろう」と話す。

課題3 マニュアル、相互支援の取り組み

 どこかの園が熊本のような事態になったとき、道内他園は動物の受け入れが可能なのか。現在、災害を想定した相互の協定は存在しない。

 災害や脱走を想定した対応マニュアルをおびひろは5年ほど前に明文化し整備してきた。ただ、地震で動物が逃げたとしても、停電が重なれば警察や猟友会への連絡が容易でないかもしれない。十勝は2016年、台風による水害も発生したため、これまでは想定もしていなかった災害が起こりうる可能性もある。

 今回の地震を受け、各園は停電時の発電や寒さに弱い動物の対応策などを改めて考え始めた。被害状況などは4園の館長が共有し、各園が今後起こりうる災害で被害が生じないよう検討を進めていく。

まとめ

 8月下旬、熊本市の大西一史市長は会見で、避難していた動物が2年4カ月ぶりに戻ってくると発表した。猛獣舎の復旧にめどがたったためで、帰ってくるのは10月22、23日。ライオンやアムールトラ、ウンピョウなど全5頭に加え、ライオンの結婚相手の雌1頭も譲り受けるといううれしいニュースが流れた。

 「熊本城は大人にとって復興のシンボルだけど、子どものシンボルは動物園」。熊本市動植物園の職員が昨年の取材時に言っていた言葉だ。地震が残した爪痕は想像以上に大きかったが、市民の思いを受けて復興の道を着実に歩んでいる。

 今回の停電災害ではいち早く開園したおびひろ動物園。災害時にも市民に癒やしを与える動物園の役割は大きい。動物たちの命を守り、元気で過ごせるよう、取り組むべき課題は多い。

熊本地震では、動物のストレス行動もみられた。動物のケアをどうするかが、動物園全体の課題となる

4園では現在も節電を行っている

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