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動物園のあるまちプロジェクト

Vol.11

2021.7.23

〈3〉助けるか助けないか 人工保育をめぐるジレンマ

命の管理~未来へつなぐ~ 第3回

動物園の繁殖では、出産が無事終わっても、順調に子育てができるかが課題になる。重要なテーマの一つが人工保育だ。おびひろ動物園でも、親の育児がうまくいかず、カンガルーやアメリカバイソンなどを人の手で育てた事例がある。

見学通路のガラス全面に貼られた葉っぱ柄のシート。マンドリルのキーボー(雄、17歳)とサラサ(雌、14歳)の獣舎だ。シートの理由は、人に見られることがストレスになるキーボーの視線を遮るためだ。

キーボーにストレスを与えないように貼られた葉っぱ柄のシート

ガラスをたたかないよう呼び掛ける写真

葉っぱの隙間を除くと、キーボーが見える

キーボーは釧路市動物園で生まれ、親が育児放棄したため人工保育で育った。幼少期から他のマンドリルと関わりがないまま育ち、3歳で帯広へ。2015年にサラサが訪れるまで11年間、1頭で過ごしてきた。

そんなキーボーについて「他のサルとのコミュニケーションができず、一定の距離がある。自分を人間だと思っているのかもしれない」と柚原園長は話す。これまで繁殖行動は一度も見られず、サラサからのアプローチにも応えていない。

鮮やかな色彩の顔がトレードマークのキーボー

キーボーにとって、コミュニケーションの対象は飼育展示係や来園者ら人間だ。ただ、多くの来園者に囲まれ、「キーボーも愛想を良くし続け疲れてしまう。それで足をかむといった自傷行為もあった」。キーボーの反応を面白がり、園側が禁止する行為をする来園者も以前は少なくなかった。柚原園長は「人工保育の弊害かもしれない。カップル成立は難しく、サラサが他園に行った方がいいかもしれない」と2頭の幸せを考え、サラサの移動希望を種の管理者に伝えている。

人工保育で育った個体が親となり、子育てをする例ももちろんある。

アカカンガルーの「ルー」(雌、7歳)は14年、母親の袋から落ちた後に育児が行われなくなったため、飼育展示係がチーム体制で育てた。すくすくと成長したルーは群れに戻り、18、20、21年に1頭ずつ出産。昨年までカンガルーを担当していた松尾太郎さんは「子育てに困る様子もなく、今年生まれた子も順調に大きくなっている」と話す。

「ルー」は「じょいのすけ」(左から)と共に人工保育で育てられた。2頭は展示飼育係と距離が近く、寄ってくることも

柚原園長は「人工保育で育った個体は雌が育児放棄する可能性が高い」としながらも、動物種や個体ごとに事情は異なるため一概には言えないとする。

親が育児放棄した場合、例えばカンガルーの赤ちゃんが袋から落ちてしまった際には、いったん袋に戻して育児をするかを見守ることもある。ただ、再度落ちてしまった場合は人工保育の検討に入る。

人工保育を行わない動物もいる。例えば群れ意識が強いニホンザルは、人工保育で育った個体は排除されてしまう。「人工保育をしてしまうと、その後は1頭で飼うしかない。35年ほど寿命がある中で、それが果たして幸せなのか」

市民が保護した野生動物が持ち込まれ、人の手で育てた例もある。そうした個体は野生には戻せず、園で飼うしかなくなる。おびひろではエゾモモンガやエゾタヌキの赤ちゃんが保護され、人工保育された。

人工保育のエゾモモンガ「あおばちゃん」。野生で落ちていたところを保護され、展示飼育係に育てられた

2020年に保護されたエゾタヌキのきょうだい5頭も人工保育。すくすく成長し、きょうだい3頭が他園に移動している

ただ、保護、または園内で繁殖した動物であっても、助ける、助けないはその時々の判断となる。「飼育頭数の状況にもよる。動物の将来を考えて、倫理観との葛藤をし続けている」と柚原園長。助けることが人間のエゴになることもある。ジレンマを抱えながら、動物園は動物の現在と未来を考えている。
文/松田亜弓、映像/村瀬恵理子

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