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仕事場から見るアグア(左)と煙を噴くフエゴ、アカテナンゴ(右)の各火山

世界4位のリスク 災害国の備えと恵み あれから20年~再びグアテマラへ(10)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 首都にある仕事場の自分のデスクからの眺めはなかなか雄大で、市街地のビル群の向こうにそびえる三連の火山を見ながら仕事をしている。一番大きく見えるのが富士山のような美しい円すい形のアグア火山(3760メートル)、その隣に連なっているのがフエゴ火山(3763メートル)とアカテナンゴ火山(3976メートル)。活動が活発なのは名前の通りフエゴ(Fuego=火)火山で、昨年末に噴火した際は日本のニュースでも流れ、「大丈夫ですか」と心配のメールをもらった。幸い降灰で空港が半日閉鎖されただけで大きな被害は出なかったが、2018年6月の大噴火では火砕流がふもとの村を襲い、死者182人、行方不明者256人(同年10月の報告)という甚大な被害が出ている。

 グアテマラは日本と同じ環太平洋火山帯に位置し、国内に38の火山がある。富士山形の美しい山が多く、観光資源になっている。ただ、火山活動だけでなく、太平洋側にプレート境界を抱えることもあって(これも日本と同じ)、地震も多い「災害多発国」だ。歴史を見るとまさに自然災害との闘いで、2番目の首都(現在のシウダ・ビエハ=旧都市)は1541年にアグア火山の火山泥流で壊滅し、3番目(現在のアンティグア・グアテマラ=古いグアテマラ)は1717、1737年の大地震で破壊されている。その後遷都された現首都グアテマラシティも1976年にマグニチュード7・5の活断層型地震に襲われ、2万人以上の犠牲者を出している。フエゴ火山が上げる噴煙を日々眺め、たまに体感地震もあり、日本と同じく大地が生きていることを実感する国だ。

アグア火山のふもとに広がるシウダ・ビエハ


 噴火と地震だけでなく、カリブ海で発生するハリケーンの通り道にもなるため、豪雨被害も繰り返している。世界リスク報告(2022年)によると、自然災害が多く、かつ脆弱(ぜいじゃく)な国ランキングで、グアテマラはヴァヌアツ、トンガ、フィリピンに次いで第4位にランクインしている。災害発生頻度では日本も上位に入るが、防災、そして復旧・復興力という点でグアテマラの社会は弱い。2022年には6~10月の雨季にハリケーンなどで大雨が続き、洪水や河川氾濫による落橋などが相次いだ。道路は山を切り開いただけのものが多いため、毎日のようにどこかでがけ崩れによる道路封鎖が起き、さらに道路陥没も相次ぎ、社会・経済活動に大きな影響を与えていた。

 地震について言うと、建物の耐震性が心配だ。かつて地震で崩壊したアンティグアのような石組みではなく、現代の建物には鉄筋が入っているものの、ブロックを積み上げただけのような建築物は多い。近代的な高層ビルには国家災害対策調整委員会(CONRED)が「緊急時にも機能します」と認定したマークが掲示されているが、首都の一般的なビルの建設現場を見ると結構なスピードでどんどん高くなっていく様子に「耐震は大丈夫かな」と不安を覚える。1976年の地震は震源が北東160キロと離れていたにも関わらず、首都で大きな被害が出た。もし震源がもっと近く、もしくは直下型が起きたらどうなるのか。職場から見えるビル群がぐしゃりとつぶれる姿をつい想像してしまう。

ビルの緊急時の機能を保証するマーク


 縁起でもないことを言うなと怒られそうだが、都市の建物が崩壊するほどの災害は日本でも何度も起きている。新聞記者時代には防災をテーマに取材をさせてもらっていたので、多くの被災地を訪れ、自然の大きな力の前には人工物は無力なのだと思い知らされてきた。自分の最初の災害体験は1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災。当時記者1年生で神戸の街並みが崩れて焼失する風景を見て、「こんなことは自分が生きているうちに二度とないだろう」と思っていたら、16年後の東日本大震災で津波がまちを根こそぎ奪った風景を見た。その後、東北各地だけでなく、熊本や北海道胆振などの被災地を訪れ、一番実感しているのは「当たり前の日常は一瞬で奪われる」という事実だ。

 地震や噴火、台風といった自然災害の発生自体を防ぐことは今の科学では不可能だからこそ、命を守るために大切なのが防災・減災の考えだ。その場所でどんな災害が起こりうるのかを事前に知り、それに備えること。想定はできるだけ最悪な方が良い(間違っても「想定外」なんて言葉を使わないように!)。だけどそんな怖いことをずっと考えていたら生活できないので、頭の隅においておいて、万が一のときにできるだけ安全を確保する行動を取る。簡単なことではないけれども、災害がいつか来ることを忘れてはいけない。北海道十勝では前回発生から約400年がたって次回の発生確率が高まる千島海溝巨大地震の記事を書き続けてきたが、日本に帰ったらまた取材を続けたいと思っている。(参考に読んでいただければ→「今の北海道は3・11前の東北と似ている 必ずくる道東沖超巨大地震」

2022年11月にグアテマラで起きたM6・1の地震発生図


 自然現象(そこに人がいると自然災害となる)は繰り返すと考えると、かつてアンティグアやグアテマラシティを揺らした大地震はいつかまた起こるのだろう。その時にどれだけこの国が備えの力を発揮できるのか。2022年のグアテマラ国内の豪雨災害では、国際社会の中で先駆けて日本がJICAを通じて毛布などの緊急援助物資を送り、自分も被災地の物資引き渡しの現場に立ち会ってきた。河川氾濫で「すべてを失った」と涙ながらに話す女性らにスリーピングパッドが渡されたとき、市役所の担当者が呼び掛けていた言葉が印象的だった。「これは売ったりしないでください。次に洪水が来るときのために保管するんですよ」。目の前の生活を考えたら物資を換金してしまう人もいるかもしれない。備えという未来への投資をするためには社会に余裕が必要なんだと実感した。

日本の援助物資を受け取る住民たち


 ただ、物資の備えも大切だが、さらに大切なのは個々の意識の備えだ。今回河川氾濫に遭った人たちは次にハリケーンが来たら早めに避難できるかもしれない。2018年のフエゴ火山噴火では避難勧告が出ていたのに村にとどまって亡くなった人が多くいたと聞いた。日本でも津波注意報や警報での避難率の低さがいつも話題になるが、個人の備えの意識こそが減災のカギだ。JICAはグアテマラで火山周辺自治体や住民対象の防災プロジェクトも行い、ハザードマップ作成や避難訓練実施などの支援活動を行っている。同じ災害大国として多くの悲劇を経験してきた日本だからこそ、この国でできることはたくさんあると感じる。

CONREDの倉庫に届いた援助物資


 今回はシリアスな話を書いてきたので、最後にホッと温まる話題を。グアテマラは日本と同じ火山国、ということは…そう、温泉があるのです! 「Aguas calientes(アグアス・カリエンテス=熱い水)」という地名が各地に見られるように、ぽつぽつと温泉がある。きっと掘れば日本のようにあちこちでお湯が出るのだろうけど、そこまで開発はされていない。先日、グアテマラ第2の都市、ケツアルテナンゴ近くの温泉地を20年ぶりに訪れた。ボランティア時代も隊員仲間たちと何度か訪れた大好きな場所だ。

石造りの個室タイプの温泉


 グアテマラの温浴施設は小さな部屋に分かれたタイプが多い。日本の貸し切り家族風呂のイメージに近い。これも気兼ねなくのんびりできて良いけれど、やはり露天風呂に勝るものはない。この辺りにはいくつか露天のお風呂があり、日本と違って水着を着て入るが、開放感は最高だ。今回初めて訪れた山奥の露天は朝だったからか誰もおらず、貸し切り状態だった。切り立った山肌の岩盤からかすかに硫黄の香りがするお湯が湯気を立ててしみだし、湯温は熱すぎずぬるすぎず最高の状態。どぼりと漬かり、「ふうー」と久しぶりの温泉の感覚を満喫すると、視界の向こうにどーんと富士山のような美しい火山がそびえていた。

美しい逆さ富士が映える露天風呂

 恐らくサンタ・マリア火山(かサンティアギート火山)で100年ほど前に大噴火を起こしているそうだ。お湯に入りながら富士を眺めるなんて、銭湯の壁画ではないが、日本人にはたまらないシチュエーションだ。しばらくぼーっと豊かな時間を過ごし、大地の恵みに感謝しつつ、「あしたからまた頑張ろう!」と思った。これぞ温泉の力。首都の近くにあったら回数券を買って通うのに!(そんなものないけど)

近くで見るフエゴ火山。山肌に2018年の火砕流跡が残る

景勝地のアティトラン湖もカルデラ湖。周囲は火山が多い

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