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道の駅、世界へ!北海道に学ぶ地域振興 あれから20年~再びグアテマラへ(18)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 JICAグアテマラ事務所で自分の隣の席で働いているグアテマラ人女性が、もう半年ほど前になるが私の自宅がある北海道・十勝(帯広市)を出張で訪れた。帯広と札幌に拠点を持つJICA北海道の中米向けの研修プログラムに参加したのだ。北海道で中米の人がどんなテーマを学べるの?と思うが、北海道が得意な農業分野を中心に幅広い研修が行われ、グアテマラを含む世界各国の人が道内を訪れている。先日、帯広を訪れた別のグアテマラ人の研修報告を聞いたら、環境系のプログラムに参加して阿寒で自然公園管理を学んだそうだ。懐かしい道東の写真を見てうれしかった。そんな「北海道がグアテマラのお役に立っている」プロジェクトや研修分野の中で、自分が今回グアテマラに来て「へえー、そんなつながりがあるんだ!」と感心したテーマが「道の駅」と「一村一品運動」だ。

北海道・十勝には道の駅がたくさんある(道開発局帯広開発建設部HPより)


 今や北海道観光の大きな柱とも言える道の駅。地元の特産品を買ったり、食べたりでき、広い駐車場と清潔なトイレを備えていて、ドライブの休憩地点というだけでなく、もはやその地域を代表する旅の目的地ともなっている。そんな道の駅が今、日本発の地域振興プロジェクトとして世界に発信されている。そしてなんと、グアテマラにもあるのだ。首都から車で約1時間のテクパン(Tecpán)という町にある「プエブロ・レアル(Pueblo Real)」という観光施設が、「Michi-no-eki」としてJICAの国内研修の舞台となっている(建設自体は台湾の援助らしい)。表向きに「道の駅」と名乗っているわけではないけれど、訪れてみるとそこは正に道の駅。日本の人気の道の駅にも負けないレベルの観光客おもてなしスポットだった。

広々とした敷地でのんびりできるプエブロ・レアル


 道路に面した広い駐車場は石畳で、施設はグアテマラらしい噴水付きの中庭を囲む建築で、レストランやお土産店、コーヒーショップなどが並んでいる。果物や手工芸品などを売る出店もあって歩いているだけで楽しい。さらに子どもが遊べる芝生広場やミニ動物園、新鮮野菜を自ら収穫して持ち帰れる菜園も併設している充実ぶり。乗馬コースやゴーカートもあり、裏山には散策路や展望台もある。その上で、「これはやはり道の駅だ!」と思う重要ポイントは清潔で広い無料トイレがあること(グアテマラではとても貴重)。そして何より道の駅らしいのが、地域の人々が趣向を凝らした地場の特産品を扱っていること。グアテマラ特産の織物などの手工芸品や絵、陶器など、日本も関わる「一村一品」の品々を買うことができる。

店内では高品質な手工芸品を買うことができる


 今回グアテマラに来るまで知らなかったのだが、日本発祥の地域おこし活動「一村一品運動」は今やJICAを通じて「OVOP(英語:One Village One Product)=オボップ」の名前で世界に広がっている。その流れで北海道でも道の駅や特産品開発をテーマとした研修が用意され、中米の人々が学びに道内を訪れているのだ。今年の初めには道内の関係者が道の駅プロジェクトの現地補完研修の一環としてグアテマラを訪れ、プエブロ・レアルにも来ている。ちなみにグアテマラでは経済省がスペイン語で「Mi Pueblo Mi Producto(私の村、私の製品)」という名前でプロジェクトを推進し、特産品が一堂に会するお祭りを開いたりしている(https://www.facebook.com/mipueblomiproductoguatemala/)。日本の地域振興のアイデアがこの遠いグアテマラにも広がり、そこに北海道も関わっていることはとても感慨深く感じる。

 グアテマラ経済省「Mi Pueblo Mi Producto」のFBより


 日本の一村一品運動と言えば、最も有名な場所は1979年に故平松守彦知事がこのアイデアを提唱した大分県なのだが、自分が一村一品と聞いて真っ先に思い浮かべるのは北海道・十勝の池田町、そして「ワイン町長」こと元池田町長の故丸谷金保(まるたに・かねやす)さんだ。1960年に新農村建設計画として地域の若者たちとブドウづくりを始めて「十勝ワイン」として知られる日本初の自治体ワイナリーを立ち上げ、ワイン城建設、あか牛(いけだ牛)の導入、町営レストランや青少年施設開設、スポーツではカーリング導入、高齢者福祉としての陶芸振興など幅広い分野において時代を先取りする発想で池田町を盛り上げた。まさに日本における一村一品運動の元祖とも言える人物だ。先日グアテマラでOVOPのアドバイザーをする日本人専門家の方の講話を聞いたら、「OVOPはただの品物のブランド化でなく、ひと、こと、歴史、文化など地域のブランド化」と話していた。これを聞いて「池田の取り組みは地域のブランド化=OVOPの始まりだったんだ」と確信した。

 ちなみに自分と池田町のつながりは、グアテマラのJICAボランティアを終えて十勝毎日新聞社に復職した後の2007~11年に池田町に1人支局長として勤務したことに始まる。そして当時88歳だった丸谷さんに人生を語ってもらうロングインタビューを行う幸運を得た。この経験は記者としての自分のキャリアの中で忘れられない取材となった。とにかく頭の切れる人で驚かされた。何度も本を書き、講演をしてきた経験からとは思うが、自然な語りが内容的にも分量的にもほぼ手を入れずにそのまま新聞記事になりえた経験は後にも先にもこれが唯一だ。90歳近いとは思えない頭の回転の速さと柔らかさ、若造を相手にしても偉ぶらずにユーモアあふれる態度で接していただき、毎回お会いしてお話しをするのが楽しかった。政治家だったので当然に敵もいたのだろうが、新しい時代を創るリーダーとはこういう人なんだと感じる、世界に誇れる尊敬できる人物だった。

2009年撮影の池田ワイン城35周年パーティー。当時90歳の丸谷さんも来ていた


 話がそれたが、そんな経験もあって、日本の一村一品運動がこのグアテマラにも広がっていることにひときわうれしさを感じる。グアテマラは独自の豊かな文化や食、自然にあふれる国なので、その地域を知り、魅力に深く触れる場所として各地に「Michi-no-eki」ができたらいいなと思う。そしてプロジェクトを通してグアテマラの人が北海道を知ってくれることもうれしく思う。同僚の女性も帯広に2週間ほど滞在し、研修で農家の取り組みを学んだほか、道の駅でおいしいアイスクリームを食べたり(恐らく音更かな)、居酒屋で豚丼を食べたり、ばんえい競馬を見たりと十勝を満喫してくれたようだ。何が印象的だったかを聞いたら、広大な大地とか日本食とか言うかなと思ったら、「道路沿いの花壇にいつもきれいな花が植わっていた」ことに感銘を受けたそうだ。なるほど、違う視点から学びは生まれるなあと思った。

プエブロ・レアル内のカフェ。おいしいコーヒーが楽しめる

トイレが清潔で気持ち良いのは道の駅として大事なポイント

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