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やっぱりコーヒーおいしいんでしょ? あれから20年~再びグアテマラへ(17)

小林 祐己

JICAグアテマラ事務所企画調査員

 前回グアテマラのチーズの話を書いたら、「そんなことよりもコーヒーじゃないのか!?」という声が聞こえてきた気がした(自分の心の声です)。そう、日本で「グアテマラ」と言えば間違いなくコーヒー産地として知られている。一般に名前が知られた先駆けは2004年発売のサントリー「ボス・レインボーマウンテンブレンド」だろうか。これはグアテマラ全国コーヒー協会(Anacafe)が認証した豆を使った缶コーヒーで、特徴的な虹色の缶デザインに見覚えがある人は多いと思う。ちなみにこの虹色は「グアテマラ・レインボー」と呼ばれる色彩豊かなグアテマラの伝統的織物をイメージしている(ですよね、サントリーさん!?)

グアテマラ「レイボンボーマウンテン」の産地マップ(サントリーHPより


 最近では2020年にセブンイレブンがコンビニコーヒー「グアテマラブレンド」を発売している。定番コーヒーより20円高い高級ブランドの位置づけで、「おー、グアテマラが付加価値になっている!」と喜んでよく買っていた。味は深煎りで濃いうま味のコーヒーだった。もう今はないのかな。そうした有名どころだけでなく、コーヒー豆販売店やちょっとこだわりの喫茶店に行くと、「グアテマラ」ブランドを見ることができる。最近では「アンティグア」「ウエウエテナンゴ」「アカテナンゴ地区」なんてさらに踏み込んだ地名ブランドもあって、グアテマラ好きにとっては楽しい限りだ。

コーヒー売り場に並ぶ各産地のブランド


 そんなグアテマラなので、2004年に協力隊を終えて日本に帰った後は、「やっぱり向こうはコーヒーがおいしかったんでしょ?」とよく聞かれた。「はい、そりゃもう!」と胸を張って答えたかったが、残念ながら「いや~、、それが…」と言葉を濁すことが多かった。なぜかというと、隊員時代の2年間の滞在でおいしいコーヒーを飲んだ記憶がほとんどなかったからだ。グアテマラの名誉のために言っておくと、当時から間違いなくおいしいコーヒー豆は存在したし(レインボーブレンド発売は2004年だ)、おいしいコーヒーを出すカフェもあったろう。だけど超田舎暮らしの協力隊員にとって、高級なコーヒーを飲む機会はほとんどなかったのだ。

 そして最大の理由がグアテマラ庶民のコーヒーの飲み方にある。ホームステイ先でも毎日コーヒーは出たが、一般的な作り方は大鍋に粉をぶち込んで煮る「煮だしコーヒー」なのだ。それに砂糖をこれでもかと入れて飲むのが「グアテマラスタイル」。味はコーヒーというよりも煮た豆汁という感じで、そういうものだと思えば決してまずくはない。自分はコーヒーが大好きなので、砂糖を入れずに一日に何杯も飲んでいたら、現地には「多量のコーヒーは体に良くない」という考えがあるようで、「ユーキ、飲みすぎはだめだぞ」と注意してくれる人もいた、自身のコーヒーカップに砂糖山盛りのスプーンを3、4往復させながら…。男女ともに立派なおなかの人が多い理由はこれなのかと納得した。

チチカステナンゴのカフェにて


 あれから20年、愛すべき煮だしコーヒーは健在ながら、首都や地方の町にもおしゃれなカフェが本当に増えた。そこでは〝本物〟のコーヒーを楽しむことができるし、自分が飲む機会も増えた。味は産地によっていろいろながら、今なら胸を張って「はい、そりゃもうおいしいですよ!」と答えられる。グアテマラの高級豆はほとんど輸出用と言われるけれど、地方の町で地元のこだわりの豆をブランド化して売っているのを見かけることも多い。コーヒー農園の見学も観光ツアー化されているので、コーヒー好きな人は国内各地を巡ると楽しめると思う。ところが最近、この国のコーヒーにはまだ別の「落とし穴」があることに気が付いた。

 グアテマラではよくガソリンスタンドに併設されて、日本で言う「コンビニ」があり、イートインコーナーで入れたてコーヒーが買えるのだが、ここで「外れ」の経験が続いた。とにかく薄いのだ。アメリカンと言えば聞こえはいいが、コーヒー風味のお湯といった方が近い。前回書いた懐かしのチーズを捜しに行くドライブでも出がけに気分よくコーヒーをテークアウトし、いざ車内で口にすると「お湯!!」。仕方なく冷めていく湯をすすりながら車を走らせた。地方の空港でもこのお湯が当たった経験がある。売り子が豆をけちったのか、薄味好みなのか。「濃い味は苦手」もしくは例の「体に良くない説」の人が一定数いるのかもしれない。コーヒーは専門店で買うべし、が結論だ。

首都のこだわりのコーヒー店にて


 あと、味で言うと、グアテマラのコーヒーは全般に酸味が強めに感じる。国内産地の多くは標高1300メートル以上の高地にあり、寒暖差の大きい気候条件が高品質の豆を生むとされており、凝縮された酸味はその特徴だという。コーヒーは奥が深い飲み物で、産地だけでなく、焙煎方法や入れ方などで味わいは変わるので豆の味だけとは一概には言えないが、お土産で日本に持ち帰ったコーヒーに「酸っぱい」という感想が集まったことがある。酸化した品質の悪い豆を買ってしまった可能性もあるけれど、酸味が好きな自分でも「酸味強すぎ」と感じることはある。これは好みの問題だと思うので、滞在中にいろいろな産地を試して、自分好みの豆を見つけたいなと考えている。

ハワイ村があるサンタ・ロサ県でも標高の高い地域で生産している


 グアテマラのコーヒー豆生産量は世界10位くらいで、ゴマやバナナなどと共に輸出品目の柱になっている。一方で生産者の約93%は農地約1・1ヘクタールほどの小規模で、それだけでは生活できない低収益の農家が多いという。主要国内産業として確立しているイメージがあったので意外だったが、日本も国際協力機構(JICA)を通じた調査や支援を行っている。産地では不要な果肉部分の廃棄や精製処理の排水などの環境問題、気候変動に関係する病気の発生など課題が多く、こうした観点からコーヒーに関わる活動をする協力隊員もいる。今年初めに隊員と共に首都に近いチマルテナンゴ県のコーヒー農園を訪ねる機会があった。

農園では生豆を天日乾燥している


 アカテナンゴ火山のふもとの標高約1500メートルに位置する農園のご主人は、自分の隊員時代も含めて長くJICAグアテマラ事務所に勤めた方で、広大な農園は祖父が開拓したのだという。広大な農園に入るとコーヒーに日陰を作るための「シェードツリー」と呼ばれる大きな樹木が森を成し、その木陰で背丈より少し高く整えられたコーヒーの木が赤い光沢のある実を付けていた。この農園の特徴は水洗い式の生豆加工作業で出る廃棄物(果肉)を発酵させて「ぼかし肥料」を作り、栽培に循環させていること。手間はかかるが、環境負担が少なく化学肥料も減らせ、何より「味が良くなる」と良いことづくめだ。

大木の木陰で育つコーヒーの木


 残念ながら生産した豆は100%輸出用で、焙煎設備もないため、農園でコーヒーを飲むことはできなかったが、うれしいことがあった。ご主人がぼかしの作り方を説明してくれたとき、大事そうに取り出した分厚いファイルの中に、20年以上前からの歴代の協力隊員(主に農業系隊員)が作成したぼかし作りや施肥に関する資料が保管されていたのだ。自分と同時期の良く知る隊員の名前もあった。「彼らに作り方を教わったんだよ」。主人はさらに研究を発展させ、ぼかしによる効果をデータで毎年記録していた。協力隊の活動成果はなかなか形に見えにくいものだけど、こうして時を経ても生き続けているのを見て胸が熱くなった。

歴代隊員の活動が詰まったファイル


 農園の帰りにどうしてもコーヒーが飲みたくなり、近くのパラモスという小さな町でカフェを見つけて飛び込むと、ちゃんと地元アカテナンゴ産の豆を使ったコーヒーを出していた。酸味だけでなく渋みもバランスよい、うまいコーヒーだった。ナチュラルチーズもそうだったが、製品の裏にある物語を感じながら味わうと、食べ物はよりおいしくなる。

アティトラン湖を一望するカフェにて

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